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{イリーガル・レプリカ迎撃指令} アンダーグラウンドの夜。 小道や裏道を途方もなく歩く。 あれから神姫センターから出て、俺の腕時計が10の所に時針指し示した頃、溜息をつく。 「ご主人様、そんなに気を落とさないでください。まだ始まったばかりじゃないですか」 「そう言ってもなぁ…」 右肩に座り、フル装備したアンジェラスは俺の事を気付かってくれてるみたいだ。 心遣いは嬉しいのだが…正直、時間を無駄にしてるような気がしてどうしようもない。 それに元気が無い理由は他にもある…。 そして何故こんな無駄な事をしてるのかと言うと、時間をさかのぼること2時間と30分前。 ☆ 「諸君、我々のこの町にイリーガルの神姫が何体か出現した情報が入った。諸君も知ってるとうりに、これはイリーガル・レプリカ迎撃指令と酷似しているものである」 薄暗い神姫センターの受け付け近くにある電光掲示板にデカデカと書かれてあった。 スピカーも横についてるので音声も流れている。 誰の声だが知らないが大人の男の声だった。 オーナー達は全員、その電光掲示板を注意深く見ていたので、俺もヒョッコリと見てみた。 「敵の数は10万体以上、詳細不明、オーナーも詳細不明、たた明白な事はイリーガルの神姫達によって我々人間のオーナーと神姫が被害を受けている事。酷い被害の時は死人が出ている」 ヘェ~、この町で起きてるのか。 たまにしか来ないから情報が少ないだよなぁ。 でもこの町にもでたか。 イリーガル・レプリカ迎撃指令…。 2037年××月、所属不明の神姫による襲撃行為が頻発。 この事件はかなり深刻の問題になってきているらしい。 そこでこの事態を解決するべく、『MMS管理機構・日本支部兼アジア地域統括支部』は登録している全オーナーに迎撃を依頼した。 なんでも、ターゲットの正体がMMS管理機構に保管されていたイリーガルAIデータを、どこぞの馬鹿野郎がハッキングして盗んだらしい。 しかもタチが悪い事に、犯人はイリーガルAIデータを複製し、別素体に移植しちまったという。 ほんでもってこの始末だ。 全くもっていい迷惑だぜ。 「被害はかなりの額にもなっていて、死人の数も増える一方…この町では前代未聞の事件だ」 神姫を使った殺人かぁー。 あんまり聞いて良い気分にならない話だ。 「このままでは、こちら側がやらればかりである。そこで諸君達に検討したい。この事件を我々の手で解決しようではないか!イリーガル・レプリカ迎撃し、見事に犯人を倒す事が出来れば、それなりの報酬がMMS管理機構・日本支部兼アジア地域統括支部から献上さえてもらえるはずだ!!」 報酬と聞いて『ウオオオオォォォォ!!!!』と叫ぶアンダーグラウンドのオーナーの常連さん達。 償金稼ぎじゃあるまいし、やる気が減る。 結局は金で動く奴等か…。 「エントリーしたい者は受け付けで登録できる。では諸君、健闘を祈る!」 それっきり電光掲示板は電源が切れたかのようにプッツリと画面が真っ黒になり、再起動したのかいつも通りの武装神姫の情報を報せる電光掲示板に戻った。 他の周りに居たオーナー達は受け付けの所に行き、我先にさっきへと償金のために登録している。 俺はそんな欲にまみれた野郎共を見ながら迷っていた。 登録するべきか登録しないべきか…。 「お前はどー思う?」 「私ですか?…正直、分かりません。でも登録するもしないのも、ご主人様の意志で決める事なので私は何も言いません。私はご主人様の意志に従うまでです」 アンジェラスは淡々と言う。 神姫としてはある意味まともな返答だが、俺的には不愉快極まりない発言だった。 何故ならアンジェラスの言ってる事は人任せと同じ事を言ってるのだから。 もっと悪く言えば『私は貴方の命令をなんでもききます』とか『私の意志は貴方の物』とか『私は貴方の奴隷です』こうなる。 少し極端過ぎたかもしれないが、少なからず当て嵌まるはずだ。 折角、自分という『意志』とか『自我』を持っているのだ。 そんな俺の命令に従うだけの神姫なんて、神姫侵食に犯された神姫と同じじゃないか。 更に言うなら、人間の命令をきくそこら辺にある機械と同じ。 「ご主人様?」 「………」 「ご主…ヒィッ!?」 アンジェラスは俺が黙っていたので顔色を伺ったみたいだ。 そして俺の顔を見て恐怖を感じ驚いたのだろう。 多分、今の俺の表情は自分でもかなり恐い顔してるはず。 この際だからアンジェラスに一言だけ言ってやった。 「二度と『絶対服従、俺の意志に従う』みたいな事を言うな」 ドスが効いた声で言うとアンジェラスは俯きながら『…はい』と元気無く答えた。 そして俺は受け付けに行き償金稼ぎの登録した。 アンジェラスが二度とあんな言葉を口にしないで、と悲痛な思いながら…。 ★ そして今に致る。 今までのいきさつで俺が元気を無くしている理由が解ると思う。 全くもって面白くない話さぁ。 「?どうかしましたか、ご主人様??」 「…帰ろうか。調子が悪いし、敵はこなさそうだ」 「…そ、そうですね。なんかご主人様、気分悪そうですし」 「………」 俺は無言のまま愛車がとまっている駐車場に足を向けた。 ホントに、今日は憂鬱な…日だ…。
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「犬子さん……」 不安な様子を隠そうともしないマスターさん。その呼びかけに、実は意味などありません。 ただただ不安で、声をかけずにはいられないだけなのでしょう。 私はそんなマスターさんに、優しく微笑みかけます。 「そんな顔をしないでください、マスターさん。いつかこの時が来るということは、以前から話し合っていた通りじゃないですか」 「ええ、ええ……この件に関しては、私たちは十分に話し合いました。 そのための準備だって繰り返してきました。 ですが……ですがそれでも、私は不安でならないのです。 こうして、犬子さんとお話しするのが、これが最後になってしまうのではないかと……!」 ……実を申せば、マスターさんのこのお言葉も今に始まったことではなくて。 幾度となく、幾度となく、同じお言葉を――同じ不安を、吐露されてまいりました。 ですがそれでも、私はその度にマスターさんのこのお言葉を真摯に受け止めます。 そこには、もったいないばかりの、私へのお気遣いが溢れているのですから。 「大丈夫ですよ、マスターさん。きっとまた、こうしてお話できます。約束しますから。 また目を覚ました私は、真っ先にマスターさんに『おはようございます』って言うんですよ。 いつものように正座して。 いつものように深々と座礼して。 だからその時は、マスターさんも一緒に、座礼してくださいね?」 「ああ……それは素敵ですね。約束しますよ」 マスターさんは僅かに不安な表情を引っ込めて、目を細めて笑いました。 まるでそれが、かなわぬ夢の光景であるかのように。 「現在時刻は23:59……もうすぐ時間です」 私は、笑顔を崩さぬままで、そういいました。マスターさんの不安を、少しでも取り除けるようにと。 「あ、はい……あの……」 マスターさんは、まだ何か言いたそうでした。ですが、その未練を断ち切るのもまた優しさと、私は学びました。だから私は笑顔のままで、最後のご挨拶をします。 「おやすみなさい、また明日」 「あ、はい、また明日」 時刻が0:00を示し、クレイドルに身を横たえた私の思考が、闇に沈んで行きます。 徐々に狭くなる視界の中で最後に捉えたのは、不安そうに私を見守るマスターさんの姿でした。 私は全身が徐々に制御を離れるなか、ほんの僅かに微笑みを浮かべます。 マスターさん…… そんな顔をしないでください 明日になったら…… きっと…… また…… 笑顔で…… system sleep... ・ ・ ・ ゆっくりと、私は起動していきます。同時にセンサーが周囲の情況把握を開始。 体内時計を確認すれば、時刻はAM07:00ジャスト。 予定通りです。 そうして目覚めた私の目に一番最初に飛び込んできたのは、 私が眠りについた時とまったく同じ姿勢で私を見守る、マスターさんの姿でした。 「犬子さん……」 「マスターさん……ひょっとして、ずっと付いていてくださったんですか?」 「あ、いや、その……申し訳ありません、不安で寝付けなくて」 照れくさそうに頭を掻くマスターさんに私は顔をほころばせつつ、いたずらっぽく言います。 「だめですよ? 今日もお仕事なんですから、しっかりお休みなさらないと」 「あー、いや、面目次第もございません」 困ったように頭を掻き続けるマスターさんですが、その顔は晴れやかです。 そしてそんなマスターさんの姿に、私は感情回路が深く温かい感覚で満たされるのを感じます。 くすりと一度小さく笑うと、私はクレイドルから身を起こし、膝をつき似非正座の姿勢になります。 そして、ゆっくりと、深々と頭を垂れます。そう、昨晩約束したように。 「おはようございます、マスターさん」 「あ、おはようございます犬子さん」 私は顔を伏せたまま、マスターさんも慌てて頭を下げる気配を感じます。 それから私たちは、どちらからともなく示し合わせたかのようにゆっくりを顔を上げました。 「それからマスターさん」 私は、マスターさんににっこりと満面の笑顔を向けました。 「武装神姫の自動起動タイマー設定の成功、おめでとうございます」 <そのよん> <そのろく> <目次>
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2012/6/09 いまだにこんな辺境の地を見ていただいてるかはわかりませんが、移転予定。 ブログではなくて、HPをきちんと立てる予定。予定は未定といいますので、また長期失踪もありないこともない。 2012/5/23 ああ、顔のモデリングが・・・目が・・・口が・・・ 2012/05/13 武装完成。ゼビュロスが超絶怪しい 2012/05/12 ともあれ一応の完成。あとはテクスチャーはって微調整かなぁ http //www.nicovideo.jp/watch/sm17800077 【ニコニコ動画】【MMD】先生に踊ってもらいました【テスト】 2012/05/10 後ろからの資料が少なすぎた! 1360 768 2012/05/09 一日作業でエウクランテ装備。 ヘッドパーツは自信ないから予定はなし。 ↓ニコニコ静画でアップ http //seiga.nicovideo.jp/seiga/im2038199 2012/05/08 MMDモデルでも作っていきましょうか ※タイムスリップしとるがな。2011→2012表記替え 2011/10/26 もう何日もしないうちに終わってしまうんだなぁと。 2011/8/27 バトロン・ジオスタサービス延長だとな。 あれだけ何の音さたもなかったというのに今更っていう! 課金もできないし、特にやることは見つからないけれど MMD用の資料集めでもやりますかな 2011/8/25 ホワイトグリン子さんなるものを見つけてえらく気に入ったので MMDの操作方法に悪戦苦闘しながらようやく3秒分の動画になったので ニコニコ動画に上げてみました。 ↓ http //www.nicovideo.jp/watch/sm15423945 いやしかし、画質が悪すぎる 2011/8/23 時間がないので、ちまちま二次小説を一から手直し中。 プロットもなにもなしで思いつくままに書いてるためにこの先の展開どうするのよと 自分ながら思ってしまう。 2011/8/22 MMD導入してみました。 神姫のモデルデータを作成していこうかなって思いつつも、そんな時間もないのがやきもき。 2011/7/24 色々と8月は忙しくなる見通しから公式掲示板への投稿を終りにします。 本当なら、明言せずともひっそり消える予定でしたが なんの予告もないアイテムショップのセールとその価格に呆れてしまったのがキッカケでしょうか。 0円セールにしろよなんていうわけではなく、やるならやるで告知があれば 最後に課金して、あれやこれや一杯使ったSSつくってみたいとか思ってたのですが そんな事もさせてもらえませんか、そうですか。みたいな! 2011/5/31 バトロン・ジオスタ共にサービス終了とのことで。 3年前にニコニコで武装神姫の広告からやってきた自分が最初に購入したのがエウクランテ。最後に買ったのが天使型悪魔型Mk2になりますが、その間にたくさんの神姫と遊んだものです。 環境からフィギュアなどの実物に手が出せない自分にとってジオラマスタジオと武装神姫はほとんど同じものでした。 それが3ヶ月後に無くなってしまうと思うとさみしい気持ちでいっぱいです。 ここもほとんど更新もなかったですが、見ていてくださった方にはどれだけ感謝の言葉を著しても、すべて伝わらないのも寂しいものです。 残りの3ヶ月で出来る限りのSSを撮って、コナミにはこういう商品がほしいなっと送るメールの内容を考えていきます。 « » var ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86 = new Array(); ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[0] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20111025_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[1] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20110724_001.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[2] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100809_011.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[3] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20110319_035.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[4] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100810_060.jpg ; ppvArray_0_ff60befc58931aef83105dfcea331d86[5] = http //w.atwiki.jp/guringurin/?cmd=upload&act=open&page=%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&file=20100810_014.jpg ; 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前へ 先頭ページへ 人、人間、ヒューマン。 今現在、地球の食物連鎖の頂点に君臨する種族たるそれは、地球に存在するあらゆる獣に劣る。 犬に噛まれて、最悪死ぬ。 道に落ちているものを食べて、最悪死ぬ。 熱かったり寒かったりで、最悪死ぬ。 身体能力、免疫能力、適応能力etcで動物以下の能力しかもたないそれらが、唯一獣に勝る物、それは頭脳。 人は思考する。 人間は想像する。 ヒューマンは予想する。 犬に噛まれない為に、その習性を理解して手なずける。 道に落ちているものが安全かどうか、知識を持つ。 熱かったら身体を冷却し、寒ければ防寒具を身につける。 本能の命じるままに動く野性を抑え。 頭を働かせる理性を伸ばす。 それが人の人たる由縁であり、最大の武器でもある。 しかし、それはあまりに複雑だ。 人は理性と共に高度な自我を持った。 それは一つとして同じ物は無く、それを完璧に予測するのは困難を極める。 どんなに技術が進歩しても、それを意のままに操る事は出来ない。 それを心の底から痛感している人間―――恵太郎が、ここにいる。 狭いアパートの4分の1を占めるベッドの上に力なく寝そべりながら、その日何度目か解らない疑問を口にする 「何でこうなるんだろうなぁ」 悩む事は無駄ではない。 試行錯誤の果てに正解を見つける、この試行錯誤こそが重要ではないだろうか。 その過程で人の自我は成長していくのではないだろうか。 もっとも、正解を既に見つけているにも関わらず苦悩するということを現実逃避とも言うのだが。 恵太郎の心を掴んで離さない人物、それは他ならぬアリカだ。 だからといって、それは恋のような甘酸っぱいものではなく、どちらかといえば苦いものだ。 アリカは先日のリアルバトルからというもの、恵太郎を師匠と仰ぎ付き纏うようになったのだ。 その原因の8割程は恵太郎自身にあると言えるだろう。 だが、これだけでは恵太郎が苦悩する理由にはならない。 恵太郎が苦悩する理由、それはアリカがかつての自分と被って見えてしまうからだ。 アリカが本当に鬱陶しいのなら、冷たく突き放すという選択肢もある。 しかし、恵太郎にはそれは出来ない。 何故なら、アリカと恵太郎は全く同じ境遇にいるからだ。 もしもアリカを冷たく突き放す、という事を恵太郎がやられた場合。 恵太郎は立ち直れない自信があった。 だから、恵太郎の執る選択肢はアリカを極力避けるという無気力なものだった。 しかし、運命の悪戯というものは、かくも皮肉なものなのだろうか。 恵太郎や佐伯姉弟が通う大学、その門を潜り抜けながら恵太郎は深く溜息をついた。 「何でこうなるんだろうなぁ」 そして、その日何度目か解らない疑問を口にした。 もっとも今までと違う点を挙げるとすれば、その疑問の中心人物がすぐ脇にいる事だが。 「弟子たるもの、何時如何なる時でも師匠に付き添うのがキホンってものです!」 恵太郎の脇でご機嫌な様子で元気に喋るのはアリカだ。 その肩の上ではアリカの武装神姫たるトロンベが困惑半分、興味半分といった様子で静かに座っている。 恵太郎はそれを尻目に、その身に降りかかった不幸を嘆いている。 一体何処の誰がアパートの前でアリカを鉢合わせる事になると想像できようか。 「それにしても、大きな大学ですねー」 そんな事とは露知らず、アリカは周囲を見回しながら感嘆している。 確かに、その大学は大規模な工場を備えているのでその分大きい。 だが、そこまで驚く物ではないのではないかと、恵太郎は内心呟いた。 「あんまりキョロキョロするなよ」 恵太郎は周囲を探るように言った。 どちらかといえば、周囲の視線を測るようにだ。 その理由は単純明快。 アリカが人の目を集めているからだ。 ここは大学であって、遊園地ではない。 アリカのような少女がいる場所ではないのだ。 人数まばらな日曜とはいえ、アリカはそれなりに奇異の視線を集めている。 それが恵太郎の頭痛の種となっているのだ。 恵太郎は、それを振り払おうとするように歩く速度を上げた。 「っと、師匠待ってくださいよ~」 それはアリカにしては速すぎたようで、早足で恵太郎を追いかけた。 空は雲ひとつ無い快晴である。 だが、恵太郎はそれに気付くほどの余裕をまだ持ち合わせていなかった。 重厚な扉の上に掲げられたプレートには『多目的研究室』と書かれていた。 その下には張り紙で『第13班』とも書かれていた。 「師匠、今日は大学で何をするんですか? 今日日曜ですよね?」 「それは全員そろってから説明する」 アリカは小首を傾げつつ、恵太郎に問いかけたが一瞥されただけで満足の行く回答は帰って来なかった。 それに不満を感じたのかアリカは少し膨れているが、恵太郎はそれに触れる事無く扉を開け中に入っていった。 恵太郎の後に続き、部屋に入るアリカ。 その部屋は白い壁に3方を囲まれ、1方はガラス張りの壁だった。 壁際には様々な器材が所狭しと置かれており、部屋の中央にあるテーブルの上では資料と思しきものが山を作っている。 「アリカ、お前を紹介するからちょっと来い」 アリカはそれらを物珍しそうに見てたが、恵太郎の声にそれを中断した。 「コイツがあのアリカです……ほれ、挨拶」 「あ、あの、はじめまして。アタシは水野アリカって言います」 アリカは恵太郎に促されて挨拶したが、緊張しているのか、その身体は強張っていた。 「初めまして、トロンベと申します」 それと対照的にトロンベは落ち着いて挨拶した。 だが、良く見ると身体が小刻みに震えている。 「この人が佐伯 裕也先輩」 恵太郎は裕也を指して短く紹介した。 「おう、よろしくな、譲ちゃん達!」 それに気を悪くする事無く、豪快に挨拶をする裕也。 「にゃーは蒼蓮華なのだー、よろしくなのだー!」 その肩の上で元気一杯に挨拶する蒼蓮華。 「この人が佐伯 裕子先輩。裕也先輩の双子の姉に当たる」 「よろしくね、アリカちゃん、トロンベちゃん」 春の日差しを思わせるのほほんとした口調で裕子は挨拶を交わした。 「初めまして、私はアル・ヴェル。今後ともよろしく」 ポニーテールにしたアーンヴァル型のアル・ヴェルが挨拶をする。 「そういや、茜は来てるんですか?」 一通り紹介が住んだのを見計らって恵太郎は口を開いた。 「ああ、奥の部屋で武装のメンテをしてるぞ」 裕也は指でガラス張りの壁を指差しながら応えた。 「それと、孝也も来てるぞ」 最後に一言付け加えたが、その言葉に恵太郎は顔を顰めた。 「アイツも来てるんですか…」 「我が主をアイツ呼ばわりとは、恵太郎殿はまことに我が主に厳しいで御座るな」 何時の間にやら恵太郎の肩の上で腕を組んでいた忍者型の神姫が口を開く。 「確かに多少問題はあれど、あれはあれなりに良いところがありまするぞ」 「ああ、解ったから降りてくれ、トリス」 トリスと呼ばれた神姫は、恵太郎の言葉を聞き入れ、テーブルの上へと移動した。 「アリカ殿、トロンベ殿。お初にお目にかかる。拙者、忍者型神姫のトリスと申す。以後お見知りおきを」 そして、アリカとトロンベに向かい丁寧に挨拶した。 アリカはそれに軽く返礼すると恵太郎へ向かい問い掛けた。 「師匠、茜って?」 「ちょっとした事で知り合った女の子なんだけど、凄い技術を持っていたからスカウトしたの。それと、コーヒーしか無いけど良いかしら?」 アリカの質問に裕子が代わりに応えた。 それと同時にインスタントのコーヒーを差し出した。 「あ、ありがとうございます」 アリカはコーヒーを受け取り、ガラス張りの壁に視線を送る。 その奥の部屋はこの部屋と違い黒い壁、というよりコンクリートむき出しの部屋で、機械的な装置が多数設置されており、床には大小無数のコードが這っており、天井にはダクトやケーブルが縦横無尽に奔っている。 そこでは白衣を着た二人の人間がなにやら作業をしているのが見受けられた。 それと同時に、アリカは言いようの無い不思議な感覚に襲われた。 「……まさか、ね」 アリカはそれを振り払うように首を振った。 「ご主人様、どうかしましたか?」 主の変化を機敏に察知したトロンベがアリカに声をかけた。 「ううん、何でもないの。ありがとう、心配してくれて」 それに人差し指で頭を撫でながら事によって応えるアリカ。 トロンベは心地良さそうに目を閉じるだけだ。 「茜ちゃん、孝也君、皆揃ったわ」 テーブルの上に置かれたマイクに喋りかけるアリカ。 それはスピーカーを通じて奥の部屋へと呼びかけられた。 「解りました~、今行きます」 確かに少女の、ただ若干機械的な響きを伴った声が恵太郎達の部屋に響いた。 少し遅れてガラスの壁が天井へと向かいスライドした。 それが完全に天井の中へと収納されるのを確認した人物が恵太郎達の元に走りよりつつ口を開いた。 「けーくん、会えて嬉し…アダッ!」 恵太郎は走り寄ってきた人物に容赦のない蹴りを叩き込んだ。 「寄るな、鬱陶しい」 腹部を蹴られたその人物は地面をのた打ち回っている。 「…師匠、誰ですかコイツ」 アリカはそれをやや離れた位置から見下している。 「ああ、君がけーくんの弟子のアリカちゃんだね! ボクは高野 孝也、けーくんの親友だよ」 「誰が親友だ、誰が」 いつのまにか立ち直った孝也は、恵太郎から冷たい視線を浴びせられた。 「なーんかオタク臭いわね…」 「あはは、手厳しいね」 アリカは孝也の白衣に眼鏡という出で立ちを見て、正直な感想を漏らした。 しかし、それに対して孝也は困ったように笑うだけだ。 その様子を傍観していた恵太郎だが、ふと思い出したように口を開いた。 「…アリカの事、お前に話してたか?」 言いながら佐伯姉弟の方も一瞥した。 「それなら、私が話しときました」 今まで黙っていた、もう一人の白衣の少女が口を開いた。 眼鏡に白衣と、孝也と同じ服装だが、こちらは様になっていてどっからどう見ても研究者だ。 「アリカの事なら私が一番知っていると思いましたから」 にこやかに言い放つ少女。 それをワナワナとしながら見ていたアリカは口を開いた 「何でアンタがココにいるのよ!?」 その叫び声は、四つ隣の研究室まで聞こえたという。 世界は広いようで狭い。 芸能人が近場に住んでいたり、学校の友人が実は親戚だったり。 幼馴染と10年ぶりに再会したり、街中で親とすれ違ったり。 人と人との縁というのは、本当に摩訶不思議な物だと思う。 それでも、こんな縁は御免だ。 アタシの目の前では茜が師匠達と和やかに談笑している。 それは永年連れ添った中間達、といった様子でアタシのような新参者が入り込むことすらおこがましく感じる。 「マスター、そろそろ今回の目的を話されては?」 今まで他の神姫とテーブルの上で談笑していた師匠の神姫、ナルちゃんが口を開いた。 「ああ、そうだったな。……実は先輩達に頼みたい事がありましてね」 師匠は周囲をぐるりと見回しながら言った。 その中に、アタシが少しでも入っていれば良いのに。 「なんだ、恵太郎が頼みとは珍しいな」 「ボクに出来る事だったら何でもやるよ、けーくん」 裕也先輩と高野が快く快諾している。 声には出していないけれども、裕子先輩や茜の表情からは悪い感情は感じられない。 「単刀直入に言うと、ナルの装備が壊れました。よって、その修復を手伝って貰いたい訳です」 「ああ、アリカが壊したアレですね」 茜がアタシの方を見ながら言った。 今気付いたが、ここでの茜はちゃんと人の目を見て話している。 それに学校で話すときと随分感じが違う。 この感じは、茜の家に遊びに言った時と同じだと思う。 つまり、ここにいる人たちにそれほど心を許していると言う事なのだろうか。 「私達で良ければ幾らでも力になるわ」 「ありがとうございます、先輩」 どうやら話が纏まったようだ。 師匠が懐からだしたメモリーカードを差し出して、色々と話し込んでいるのが聞こえる。 その中にはアタシが聞いた事の無い単語が飛び交うので、師匠たちが大学生なのだと実感する。 そして、それに茜が混ざっているのに違和感は感じられない。 アタシはそれに加わる事無く、ただ傍観に徹するのみ。 残り少なくなったコーヒーを口に含みつつ、視線を泳がす。 「そうだけーくん、アリカちゃんに大学紹介してあげたら?」 その言葉に身体が反応する。 「そうですよ先輩、ここは私達に任せてどうぞごゆっくり」 「いやマスターの俺がいないと色々問題が…」 「気にすんな恵太郎! ちゃんと改造しといてやるから!」 「何ですか改造って。俺はただナルの装備を修復しにきただけですから…」 「恵太郎君、年上の言う事は聞くものよ?」 師匠は思いっきり抵抗していたが、裕子先輩に言われると黙ってしまった。 ……これはチャンス? 「解りました。後は任せますけど、おかしな事はしないで下さいね?」 師匠は念を押すように、低い声で言う。 それと同時にアタシの方を見てから、指で扉を指した。 外に行くという合図だろう。 アタシはコーヒーをテーブルの上に置いて師匠に歩み寄った。 「そうだ、アリカ。トロンベちゃんもメンテしとくわ」 途中で茜に呼び止められたので、渋々トロンベを手渡した。 その間際、トロンベがどうする~アイ○ル~的な視線を送ってきたので、頭を優しく撫でてあげた。 「大丈夫、直ぐに戻ってくるから、ね?」 「…はい! ご主人様」 元気に応えるトロンベを確認して、師匠の元へと向かう。 師匠は既に廊下に出ており、扉の隙間から雲ひとつ無い快晴が見えた。 「さて、これで邪魔者はいなくなりましたね」 恵太郎とアリカが出て行ったのを見計らい、茜が口を開いた。 かけた眼鏡のレンズが反射して、その眼を窺い知る事は出来ない。 「じゃあ、とっとと作業始めようか!」 裕也がやたら元気に音頭を取る。 「…ただ直すだけというのも芸が無いでござる」 その時、孝也の頭上から声がした。 トリスは腕を組み、足を揃えて静かに続ける。 「ナル殿の刃鋼と銃鋼は確かに高性能でござる。しかし、あの御寮人にはもう物足り無いのでは御座らんか?」 「そうえば恵太郎君、ナルちゃんの装備をあれにしてからもう一年経つのね」 「そうだな、そろそろ強化の頃合かもな、姉貴」 トリスの言葉に佐伯姉弟も同意しているようだ。 それを確認し、満足そうに頷くトリス。 「そうであろう、そうであろう。今のナル殿に必要なのは機動力と火力の両立、そして隙の無い間合いだと拙者は思う」 「けど、けーくんのいない間に勝手に弄っちゃまずいんじゃ…」 乗り気ではない孝也に対し、茜はノリノリだ。 「…そういえば新型の荷電粒子砲を開発したって、四班の人たちが言ってましたねぇ。それに六班は燃料電池の小型化に成功したとも聞きましたよ。」 顎にひとさし指を添え、上方を見ながら喋る茜。 その言葉に反応したのは佐伯姉弟だった。 「なるほど、じゃあ俺は四班の連中と交渉してくるか」 「じゃあ私は七班の人たちに頼んでくるわね」 そういい残すと、颯爽と部屋から出て行った。 後に残されたのは茜と孝也だけだ。 孝也は未だに乗り気でないらしく、困った顔をしている。 「主殿、首尾良く強化できれば恵太郎殿もお喜びになられますぞ」 その肩に飛び降りたトリスは軽く耳打ちをした。 「でも、ナルちゃんの意思は…」 「私はむしろウエルカムです」 だいぶ心が揺れてきたのか、孝也の視線が泳いできた。 そして、最後の希望として話しかけたナルにも快い快諾を貰ってしまった。 「それでは制御用プログラムを作りましょうか。先輩、私だけではキツイので援護お願いします」 もはや言い逃れる術は無かった。 「ただいま戻りました」 広大な敷地面積を誇る大学をアリカに案内していた恵太郎が研究室へと帰ってきた。 その顔には明らかな狼狽の色が現れている。 「ただいま戻りました~!」 そんな恵太郎とは対照的に、元気一杯に研究室へと飛び込んだアリカ。 その顔には満面の笑みが浮かんでいる。 「よう、遅かったな恵太郎」 奥の部屋から裕也の言葉だけが響く。 「ここの敷地面積知っているでしょう…」 それに力なく椅子に腰掛けながら応える恵太郎。 その言葉からは肉体的な疲労と言うより、精神的な疲労の方が多く見える。 「どうだった、アリカちゃん?」 「はい、凄い楽しかったですっ!」 裕子の問いに満面の笑みで応えるアリカ。 その表情からは翳りは一切無く、その言葉が本意であることを物語っている。 「で、けーくん。何処を案内したんだい?」 孝也は壁際に備えられたパソコンに向かいながら問い掛けた。 「ひとまず一班から十二班まで順番に。その後MMS博物館を回って資料室と工場見学。最後にバーチャルマシーンセンタの順に。」 「成る程、それは疲れるね」 机に突っ伏しながら応えた恵太郎に軽い労いの言葉を掛ける孝也。 「神姫好きにはたまらないコースですね、先輩。どうぞ」 「ん、ありがとう」 恵太郎にインスタントコーヒーを手渡す茜。 「はい、アリカも。あとトロンベちゃんのメンテだけど、当然ながら問題は無かったわ」 「悪いわね」 アリカはコーヒーとトロンベを受け取ると、恵太郎の隣に座った。 「ご主人様、外はどうでしたか?」 「そりゃ凄かったわよ~。初期に作られたというMMSのアーキタイプとかあって……」 アリカはトロンベに今見てきたことを話して聞かせている。 茜はそれを一瞥すると奥の部屋へと歩いていった。 暫しの間、研究室にコーヒーの香りとキーボードを叩く音、そしてアリカとトロンベの談笑が支配した。 「ところで、ナルの修復は?」 一息ついたところで、恵太郎は誰にでもなく話しかけた。 「後は孝也君が制御プログラムの最終調整をしている所よ」 「……制御プログラム? 何か問題でもあったのですか?」 恵太郎の問いに裕子が応える。 その問いが若干予想外であった為、恵太郎は二度目の疑問を口にした。 「まあ、出来上がってからのお楽しみね」 しかし、その問いに満足の行く回答が反される事は無かった。 恵太郎はそれ以上追及する事無く、孝也へと視線を移した。 孝也は忙しなくキーボードを叩きディスプレイを睨んでいる。 裕也と茜は奥の部屋で作業をしている。 裕子は資料の整理をしている。 恵太郎とアリカは並んでコーヒーを飲んでいる。 名状しがたい、しかし、悪くは無い空気が研究室に満ちていた。 「ところで、四班と七班の連中から嫌な視線を感じたんですが、知りませんか?」 「それも出来上がってからのお楽しみね」 恵太郎はそれ以上追従出来なかった。 「ふう」 その空気の中、孝也が静かに溜息をついた。 研究室にいる全員の意識が孝也に集中する。 「制御プログラム、何とか出来たよ。かなり突貫だから荒が有るのは許してもらいたいけどね」 そして、パソコンからメモリーカードを抜き取ってそれを茜に手渡した。 「ご苦労様です、先輩。では、こちらへどうぞ」 茜に促されるままに恵太郎達は奥の部屋へと向かう。 地面を這うケーブル類をうっかり踏まないように、全員が注意して歩く。 目指すは部屋の隅に陣取る天井まで届く円柱状の装置。 その脇に置かれたコンソールを叩き、スロットにメモリーカードを挿入する。 「それでは恵太郎殿、生まれ変わったナル殿をご覧あれ」 コンソールの上に、何処からとも無く表れたトリスが恵太郎に恭しく頭を垂れる。 それとほぼ同時に、円柱状の装置の真ん中から上下にスライドした。 その中からは大量のスモークが溢れ出し、油圧式アクチュエーターによりナルが固定された台座ごと押し出された。 徐々に薄くなっていくスモークと共に、ナルの全貌が明らかになる。 それを見て、恵太郎は絶句した。 「何…この……何?」 それも無理は無い。 何故なら、今のナルの姿は以前とは比べ物にならない姿になっていたのだ。 まず頭部には目を惹く大きな、紅い角が生えた。 そして脚部はストラーフ型の基本パーツを装着。 が、その右腕はその身の丈と同等のサイズの砲身と化している。 次に左腕自体も大型化し、持つ刃鋼は規則正しい割れ目が入った不思議なモノになっている。 最後に最も異形の部分、背中である。 腰部には元からあった補助ブースターを改造したと思しき巨大なブースターが。 そして、背中部分には腕、と言うより触手が生えている。 「ただ装備を修復するだけではつまらないと思ったので、色々と強化してみました」 茜はその様子を楽しむように解説を始めた。 「まず、右腕の銃鋼は四班が新たに開発した荷電粒子砲を搭載しました。従来のトライリニアアクセラレータ型ではなく、シンクロトン型へと変更しました。これによって装置自体は巨大化しましたが、その分耐久性能は抜群に上昇、更に、同型の荷電粒子砲を一対に組み合わせ、交互に発射する事で威力は従来のままに連射性能を底上げしたので以前のようなチャージの必要はありません。次に左腕の刃鋼ですが、これは裕也先輩のアイデアを基に設計しました。俗に言う蛇腹剣というものなのですが、最大射程は10smと中距離戦闘では抜群の戦力を誇ります。 また、ある程度の操作が可能なので熟練すればまさに手足のように扱えるかと思います。今回強化した銃鋼と刃鋼ですが、その威力と引き換えに機動性を大きく削ぐ結果となってしまいました。簡単に言えば、重すぎたんです。それを補う為に背部ブースターの巨大化と全身各部に補助スラスターの設置で、一応は機動性を確保しました。ですが、重量が極端に増加してしまい、立つことすら侭なら無い状態になってしまった訳です。その為に、身体を支える為に三つ目の腕。鉤鋼を追加したところ、身体のバランスを取ることが可能になったばかりか、かなりトリッキーな動作も可能になりました。また、鉤鋼自体を使った攻撃も可能でそれなりに使い易いかと。最後に一つ留意点なのですが、銃鋼・刃鋼・鉤鋼のそれぞれの武装を使用中は、他の武装を併用できない事を覚えておいて下さい。具体的には、銃鋼を使用する為には左腕を使った照準補助と鉤鋼を使った姿勢補助が必要なんです。銃鋼は連射性能を飛躍的に強化したんですが、その反動自体は以前より悪化しているんです。次に、刃鋼の場合ですが、これも鉤鋼の姿勢補助が必要です。銃鋼は反動等の理由で併用はほぼ不可能です。最後に鉤鋼ですが、これは鉤鋼を使用している間は姿勢制御が出来ないのが理由です。それと、頭部ホーンは高性能センサー群です。以前と同じドップラーセンサーと超音波センサーを搭載しています……何か質問はありますか?」 心なしか嬉々としている様に見える茜とは違い、恵太郎は呆然としている。 「マスター、似合いますか?」 当のナルはというと、頬を若干紅く染めて恵太郎に問い掛けている。 その表情だけ見れば可愛らしいものだが、その全貌と合わせてみると悪魔の囁きにしか見えない。 「……ああ、最高に似合っているよ」 ようやく我に返った恵太郎が、ナルを褒める。 その表情に嘘偽りの影は無く、其方かといえば清々しい表情だ。 「茜、バッテリーはどうなってる? 前のままだとガス欠で動けないだろう」 「はい、第七班の新型燃料電池のお陰でバトルには一切支障はありません。銃鋼自体も外部イオン供給型なので、打ち放題です」 「パーフェクトだ、茜……孝也、鉤鋼の制御プログラムの内訳は?」 「通常歩行、走行、跳躍、武装使用時の四種類だけだよ」 「ナルは元々腕が四つある、多少の負荷は許容範囲だ。そこら辺を考慮して、自由度を上げて置いてくれ」 「分かったよ、けーくん」 「裕也先輩、刃鋼の耐久性は?」 「刀身部分は秒速5km/sの弾丸にも耐えられた。連結部分は集束モノフィラメントワイヤーで防護してはいるが、秒速2km/sレベルが限界だ」 「ありがとうございます、充分ですよ」 そのやり取りは研究者というより、悪の秘密結社という方が似合っていた。 「全く、先輩達には何時も驚かせられますよ。こりゃ馬鹿と冗談が総動員だ」 もう吹っ切れたのか、全員を見回しながら言った。 「師匠、凄いじゃないですか! これで向かうところ敵無しですねっ!」 アリカはまるで自分の事のようにはしゃいでいる。 「そうでもないさ」 「へ?」 アリカと対照的な恵太郎は、視線をアリカから裕子へ移した。 「裕子先輩、ナルの作動テストとして手合わせ願います」 その言葉にはある種緊迫したものが混じっていた。 「ええ、良いわよ」 裕子の表情は何時ものように小春日和の陽射しのようだ。 「…アリカ、良く見て置けよ」 「も、勿論ですよっ!」 恵太郎は険しい表情でアリカに言った。 バトルフィールド『宇宙船』 剥き出しの金属フレームに金網の足場。 余計な装飾は一切無く、あるのは金属の冷たい感覚。 戦う為に生み出された武装神姫の戦場に相応しい……ナルは新たな武装を纏いそんな事を考えていた。 今回の相手はアル・ヴェル。 もう両者共にフィールドへの転送は終わっている。 普通のバトルなら、こんな悠長に構えている暇は無い。 だが、これはナルの新武装の作動テストだ。 あくまで、名目上はだが。 恐らく恵太郎は本気だ。 ナルはそう考えていた。 「お待たせしました、ナル」 頭上から声が掛けられた。 「いえ、お気になさらず」 その声の元へ視線を送る。 そこには空中を踏み締めてナルを見下ろす雪の様な白い髪の神姫―――アル・ヴェルが居た。 アーンヴァル型の彼女だが、その装備はアーンヴァルとは異なるシルエットを醸し出している。 胸部アーマーはナルのモノと酷似している。 腰部のブーストアーマーもナルのモノと酷似している。 唯一違うのは、脚部。 脚には足首部分から三対の巨大な鋼の羽が生えている。 武装名は『羽鋼』 「裕子先輩の神姫、ナルちゃんに似てる…?」 茜はディスプレイに映る両者を見て、思わず声を漏らした。 赤と黒のボディ、白いボディ。 機体色の違いこそ有れど、それほどまでに両者は似通っていた。 「そりゃそうさ。恵太郎はアル・ヴェルの武装を模倣してナルの装備を作ったんだからな」 裕也はさも当然と言わんばかりだ。 「そんな事より」 そこに茜が割り込んだ。 「アリカは運が良いわ。だって裕子先輩のバトルしている所が見れるのだから」 「どう言う事?」 アリカは茜の真意を測りかねている。 「裕子先輩はこの大学最強の神姫マスターなんだよ」 それに端的に答える孝也。 しかし、その目線はディスプレイに釘付けだ。 気付けば蒼蓮華やロン、トリスですらディスプレイを凝視していた。 『ナル、初めは銃鋼だ』 恵太郎の声がバーチャル空間に響く。 『アル・ヴェルは攻撃に当たらないように避けてね』 それに続き、裕子の声が響く。 ナルとアル・ヴェルは無言で頷きある程度距離を取る。 「…師匠と手合わせするのは久しぶりですね」 ナルは全身の駆動チェックを行いながら呟いた。 その呟きには哀愁に満ちていた。 「マスターはバトルを好みませんからね」 アル・ヴェルの声は、ナル程では無い物の哀愁に似た響きが混じっていた。 「今日は、師匠を満足させられると良いのですが」 ナルは刃鋼で銃鋼を支えながら持ち上げた。 背部では鉤鋼に備え付けられた巨大な鉤爪が足元の金網を抉っている。 「ふふ、そんな気張らなくても良いわ」 アル・ヴェルは羽鋼を展開させた。 その翼長は悠に3smはある。 『よし…ナル、用意が出来たら好きなタイミングで発射してくれ』 ナルの用意が整ったのを確認した恵太郎から通信が入る。 「了解です、マスター」 それに短く応えるナル。 「…行きます、師匠」 「来なさい、ナル」 その言葉に、哀愁は無かった。 構えた銃鋼から爆音と共に光弾が放たれた。 上下に二つある銃口から交互に、凄まじい勢いで光弾と爆音を排出する。 しかし、光弾を撃ち出す事にナルの身体は凄まじい反動を受けていた。 『ナル、大丈夫か?』 恵太郎からの通信。 その声音には若干緊張の色が含まれている。 「…はい…ッ……問題、ありません」 銃鋼を撃ち続けながら、擦れた声で返答するナル。 『……もう暫く撃ち続けてくれ』 暫しの沈黙の後、恵太郎から続行の指令が下る。 「…了解」 それに簡潔に応えるナル。 その眼はアル・ヴェルだけを見据えている。 銃鋼から放たれる光弾はまさに雨の様だった。 しかし、それは反動によるブレで命中精度は良いとは言えないものだ。 その証拠に、アル・ヴェルは軽く身体を捻ったりするだけで大きな回避運動を取っていない。 が、背後の壁に命中した光弾は悉く被弾箇所を貫いている。 『ナル、銃鋼のテストは終了だ。お疲れ様』 恵太郎の通信と同時に銃鋼を停止させる。 「ありがとうございます、マスター」 支えていた刃鋼と銃鋼を下ろして応えるナル。 『…何か問題点は?』 「今のところありません」 『そうか、次は刃鋼だ。準備が出来次第好きに始めてくれ』 「了解です」 事務処理のような応答を繰り返す二人。 ナルは無表情で刃鋼を前方に突き出す様に構えた。 そして、ガチャリという音と共に刀身に規則正しく入った割れ目を境に分裂した。 紅と黒の刀身は何節にもわかれ、刀身同士を繋ぐのは複合ワイヤーのみ。 その間接部分ごとに自在に折れ曲がるそれは、最早剣では無い 床に分離した刀身が落ち、甲高い音を鳴らす。 それを確認したナルは左腕を高く掲げると、刀身の四分の一程が吊り下げられる。 ナルは左腕を振り下ろし、続けざまに右に跳ね上げ、そこから左に鋭く振った。 それと呼応して刃鋼が激しく波打つ。 そして、鋭く、速く、迸った。 刃鋼はまるで大蛇の様に蠢きながら、アル・ヴェルへと襲い掛かった。 伸縮自在の間接を持つそれは、瞬間的には10sm程にもなる。 そして、その先端部分は遠心力やらなにやらで相乗的に破壊力を増す。 ここでようやくアル・ヴェルが回避行動らしい回避行動を取った。 空中で脚に力を込めるようにしゃがみ込んで、刃鋼が目前に迫り自身に衝突すると言う瞬間に一気に翔けた。 その速度は神姫の眼を持ってしても図り知ることは出来ない。 それほどまでに、速い。 目標を見失った刃鋼は背後の建物を大きく抉る。 ナルはそれを確認し、左腕を大きく引いた。 それに呼応し、間接が縮まる。 一瞬で元の剣の形状へと戻った刃鋼を下ろし、前方に下りてきたアル・ヴェルを見据える。 『ナル、調子はどうだ?』 「…銃鋼ほどではないですが、反動が大きいです」 ナルは左腕を見ながら言った。 機械の腕に疲労に似た感覚が襲っているのだ。 恐らく、荷重に耐え切れないアクチュエータが悲鳴を上げたのだろう。 『なるほど、そこらへんは調整が必要だな』 恵太郎の言葉に、感情は込められていない。 「そろそろ良いかしら、マスター?」 アル・ヴェルが裕子に向かい通信を開いた。 その声には何かを待望する、そんな色が含まれていた。 「マスター……ボクもそろそろ我慢できないよぉ」 ナルの口調が変わった。 若干俯きながらも、その瞳は紅く輝いている。 『…良いわよ、アル・ヴェル。たまには羽を伸ばさないとね』 裕子の諦めたような、それでいて優しげな声が聞こえてきた。 「ありがとう…マスター」 アル・ヴェルはゆっくりと浮上しながら礼をした。 『ナル、お許しが出たぞ。好きなだけ大暴れしな!』 恵太郎は凄く嬉しそうだ。 「あはは、言われなくても……そのつもりだよぉ!」 そう叫ぶと同時に、ナルは銃鋼を構え、無数の光弾を穿き出した。 先程よりも雑で疎らな光弾の雨に、アル・ヴェルは羽鋼の出力を全開にして超高速で翔け回り、回避する。 その姿を目で捉えることが出来ないナルだが、それでも攻撃を止めない。 次第に光弾の及ぶ範囲が広くなって行く中、ナルのドップラーセンサーは確かにアル・ヴェルの姿を捉えていた。 「そこだぁ!」 支えていた刃鋼を左に大きく振り抜く。 刀身は伸びながらアル・ヴェルへと迫る。 ナルは銃鋼の欠点である集弾性の悪さを逆に利用した。 逆に光弾をばら撒く事によって、アル・ヴェルの逃げ道を塞いだのだ。 そして、動きが止まる瞬間を予測して刃鋼の攻撃を加える。 「なるほど、いい作戦ですね」 しかし、それはアル・ヴェルにはまだまだ通用しない作戦のようだ。 迫ってきた刃鋼を、アル・ヴェルは蹴り飛ばして凌いだ。 勿論、ただの武装では刃鋼を蹴り返す事など出来ない。 その秘密は、羽鋼にある。 羽鋼は電磁推進装置を利用した機動装備である。 従来のブースタータイプと違い、一種のバリアーによる反発力を用いるこの装備は爆発的な速度と運動性能を得る事が出来る。 そして、アル・ヴェルはこの反発力を刃鋼にぶつけたのだ。 「まだまだ脇が甘いですね」 一気に、一瞬でナルへと接近したアル・ヴェル。 ナルの息がかかるほどの近距離で一言言うと、ナルに強烈なローキックを浴びせた。 先程同様バリアーの反発力を乗せたそれはナルの巨体を軽々と吹き飛ばした。 それでもアル・ヴェルは攻撃を止めない。 吹き飛ぶナルに一瞬で追いつくと、ナルの顎を蹴り上げた。 再び軽々と上方へと吹き飛ぶナル。 ナルが最高到達点に先回りしていたアル・ヴェルは身体を横向けに回転。 そして、渾身の力を込めて蹴り落とす。 それは必殺の威力を孕む攻撃であり、喰らえば唯では済まない。 否。 唯ではすまないのは両方だった。 アル・ヴェルの脚がナルに触れる一コンマ前。 その瞬間、ナルの銃鋼はアル・ヴェルへと照準を定めていた。 爆音が響き、爆炎が渦巻く。 それと同時に両者は弾かれた。 ナルは床に、アル・ヴェルは壁に叩き付けられる。 銃鋼の光弾と羽鋼のバリアーの高エネルギーの衝突が爆発を引き起こしたのだ。 「あははぁ、やっぱ師匠は強いやぁ」 刃鋼を杖代わりにし、鉤鋼で体制を立て直すナル。 見た目は酷い損傷だが、その眼の闘志は消えていない。 「ナルも随分と肝が据わってきましたね」 壁にめり込んだ体を引き抜き、空中を踏み締めるアル・ヴェル。 しかし、その身体に損傷は見受けられず身を包む覇気も衰えない。 「さぁ、休憩はオシマイ。第二ラウンドだよぉ」 ナルは刃鋼を前方に向けたまま、左腕を深く引いた。 「休憩なんて挟むのも勿体無い」 羽鋼を大きく羽ばたかせ、前傾姿勢になった。 彼女達は武装神姫。 戦う事に、理由は要らない。 アル・ヴェルの羽鋼が瞬く。 度を超えたバリアーの過剰出力が強い光を伴わせる。 その速度は最早如何なる方法を取ろうとも、捉えきれるものではなかった。 だから、ナルは予測した。 左手を勢い良く繰り出す、一般に言う突きだ。 ただし、刃鋼の突きのリーチは10smオーバーだ。 アル・ヴェルは最高速度で飛翔した。 それはつまり機動性を殺すことだとナルは考えた。 そして目標は自分。 その道筋は一本道。 そこに、刃鋼を置いておけばどうなるか? 単純明快、正面衝突である。 しかし、アル・ヴェルの機動性はナルの思惑を遥かに凌駕していたのか。 アル・ヴェルに迫り来る刃鋼。 その衝突の寸前に、アル・ヴェルが進路を変えたのだ。 アル・ヴェルの羽鋼はいかに速く動いている状態でも、自在な機動を実現したのだ。 そして、最高速度のままナルに激突。 純粋な加速エネルギーだけの攻撃。 だが、それだけで神姫を粉砕するには充分すぎる破壊力を孕んでいる。 決まった。 アル・ヴェルは思った。 確実にナルの胸部を貫いていると。 自身の勝利が決定したと。 が、心のどこかでそれを否定したかった。 「あははぁ、やっと捕まえたぁ」 そして、それは否定された。 アル・ヴェルの脚は確かに貫いていた。 胸部をガードした銃鋼を貫いていた。 その上、鉤鋼でアル・ヴェルの脚をがっちりと掴んでいた。 「師匠…ボクの……腕は…三つあ…る…んだ……」 だが、アル・ヴェルの爪先がほんの少し、ナルの胸部を抉っていた。 すっかり暗くなった帰り道。 アリカと茜は帰路に付いていた。 「それにしても凄かったなぁ…」 アリカはナルとアル・ヴェルとのバトルを反芻している。 「私もアル・ヴェルさんのように強くなれるでしょうか…」 トロンベもバトルを反芻しているようで、小さく呟いた。 悲観的な言葉に対し、その声音は強い意志を感じさせた。 「ふふ」 その光景を見ていた茜が思わず笑い声を漏らした。 「何よっ、文句あるの!」 何となく気恥ずかしいのでそれに食って掛かるアリカ。 「ただ、アリカって変わったよねぇ、って」 アリカの目を真直ぐ見据えて微笑む茜。 その様子にいきなりしおらしくなるアリカ。 「変わったといえばアンタの方よ……今まで大学の研究室に行ってたなんて一言も言ってくれなかったじゃない」 俯きながら少し拗ねる様に言う。 「…アタシが先輩達の研究室に通うようになったのは丁度一年前からよ。その時、アリカが変わったと思っていたの。私の好きなアリカはもう居なくなったと思ったわ。私は寂しかった。その寂しさを埋めてくれるのは先輩達だったわ。だからアリカに言わなかったの。もし、アリカがずっとあのままだったら私はアリカを見限っていたわ」 急に真面目な口調で喋る茜。 「じゃあ、何で今更」 歩くのを止めてアリカに向き直る茜。 「私の大好きなアリカが帰ってきたからよ」 そう言うと、茜はアリカに軽く触れるだけのキスをした。 「…随分と久しぶりにしたわね」 顔を真っ赤に染め、そっぽを向きながらアリカは言った。 「ふふ、じゃあ久しぶりにアリカの家に泊まろうかしら?」 悪戯っぽく笑いながら歩き出す茜。 「マスター、トロンベに噛まれますよ」 それに空中散歩していたロンが喋った。 「わ、私はご主人様さえ良ければ…その……別に」 ロンの言葉に顔を真っ赤にしてトロンベは反論した。 「良いわよ…皆で泊まれば良いじゃない」 アリカは蚊の鳴く様な声で言った。 しかし、それは茜に耳にきっちり入っていた。 「じゃあ今日は大好きなアリカのお家でお泊りパーティね?」 軽くスキップをしそうな茜に、アリカは咆えた。 「気安く好きだの言わないでよっ!」 その顔はトマトの様に赤かった。 先頭ページへ 次へ
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連続神姫ラジオ 浸食機械 ~機械仕掛けのプリンセス~ はじかき はい、浸食機械全24話、終了いたしました。最後までおつきあいくださった皆様、お時間を割いてちょっとでも読んでくださった方々、誠にありがとうございます。当方が勢いとのりで始めた長文、かなり癖のある文体だったと思いますがいかがだったでしょうか?ご意見ご感想お待ちしております。 当初は新聞の小説コーナーを目指して、短く・読みやすく・短期間で続編をだすことを目標にしていたのですが、まあものの見事に間が開いてしまいまして、結局一年越しの完結となりました。それでも三千人近くの方が足を運んでくださっていることを考えると武装神姫というコンテンツの強さを実感します。こんなに足はこんでもらったのはじめてだよ。 作者としてはいろんなキャラクターの神姫への愛を描いてその中で主人公がどんな未来を選ぶのかというのがテーマにあったりします。その辺はうまく伝わってくれたでしょうか。俺設定、独自解釈などありましたが大丈夫だったでしょうか。終わった今は、それだけを考えています。 さて、ここからはおまけコーナーとなります。はしょったところとか元ネタとかここを見てとかそう言ったところをつらつらと書き込んでいくつもりです。もし興味がおありでしたらここからのカーテンコールにもおつきあいください。それでは、皆様の神姫ライフが実りあるものであることを心から願っております。 完 戻る 疑似ライドシステムとか 要は他のロボットとかにもライドできて神姫と一緒に戦えたら楽しいなと思って作った設定です。機能としては乙女回路と女帝回路の違いと思っていただくのが一番わかりやすいかと。このシステムがロボット産業含め各地に普及していることで今回の事件が起こります。説明書を読まずに直感でイメージ通りに動かせるシステムとか便利だと思いませんか? 最後の樹のイメージ 劇中でも言ってますがまんまバベルの塔です、不思議の海のナディアの最初の方に出てきた方の。 プルミエと勝 今回の主人公。やっぱり主人公は素直で最初は弱くてニュートラルじゃなきゃねということで抜擢。 ルートと浩太 携帯コミックからの参戦。ちょい役でもいいのでいろんな所からキャラをだしたかったのです。ルートさんは本当にかわいいのですがもうダウンロードもできませんから広めることもできないのが・・・何のかんの言ってマスター思いのいい子なんですよ。 ハーデスとガイア ヒロイン候補。隠しテーマは神姫のための強いマスター。バトマスから参戦。ガイアは原作をやる限り戦うのが好きなだけのキャラのイメージだったのでこんな感じに。あとは普段ハーデスさんを溺愛してる感じがしたので結構ラブラブに。 ツガルとステベロス バトマスから参戦、完全にちょい役。 ヘンゼルとグレーテル 隠しテーマは愛をいいわけにしている人。とはいってもヘンゼルのことは大切に思っているはずなのですが。昔彼女のひどいことをしてしまったのでその後悔から抜け出せずに立ち止まってしまってる人。バトマスから参戦、今回のメインヒロイン。ゲームを見たときから一目惚れで、是非彼女のその後とか成長がかけたらなと思っていたのでヒロインに抜擢。彼女を幸せにしてあげたいと思っているマスターは多いのではないでしょうか。でもエンディングは某大往生のショーティアという。 rootと西園寺 悪役をだすならこの人しかいないと言うことで抜擢。性格は二転三転して結局野心を捨てていないキャラに。rootはGP03の中の人みたいなもの扱いなので普通の神姫として登場。擬人化のイメージ元はどこかにあげられていた擬人化絵から拝借。ちなみの元々この話はゲームとして作りたいなと思っていたので当初はrootエンドとかも考えていました。 清四郎と楓 オリジナルキャラにしてヒロイン候補。OVAを見ていて小学生が神姫に興味を持つなら近所のお兄さんに影響されてとかの方が面白いかなと思い清四郎は生まれました。性格はラジオロンドの頃のあすみすそのままです。あーしとか特に。とにもかくにも男前のキャラ。そしてどんな結末でも結局は結ばれず年上のおねいさんへの初恋という形で終わるキャラ。 楓はデビルサバイバーというゲームの柚子という子が骨組みになっています。ヒロイン候補で彼女の手を取って脱出という選択肢もありますが、その場合神姫を捨てて普通の人間エンドになります。コレはどうなのでしょうか。人間であることとシナリオのせいでものすごく割に合わない子になってしまいました。ちなみに隠しテーマは神姫に負ける人間。没にしましたが「愛し愛されるためだけに生まれたあんた達なんかに私たちの苦しみがわかるもんか」という台詞を言わせたかった。 コウガ 今回の元凶。わかりやすいラスボス。人間に復讐したい、でもしたくない、だから誰か止めて。今回の事件で大いに穴があったのはこの辺の心境が原因です。 戻る
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ウサギのナミダ・番外編 少女と神姫と初恋と その2 ◆ 美緒は不安で沈んだ気持ちのまま、待ち合わせのM駅に降りたった。 彼と最寄り駅で待ち合わせ。 彼の家に初めてのお呼ばれ。……理由が何であっても。 心の準備が整う間もなく、放課後はやってきて、あわただしく下校して、家で大急ぎで私服に着替え、最速で身支度を整えて、パティと神姫の装備とメンテナンス用具が入っているカバンをひっつかみ、そのまま自宅を飛び出した。 肩まで掛かる髪を撫でつけながら、思う。 もっと気の利いたおしゃれができるように、なっていればよかった。 梨々香の言うことをもっと聞いていれば、こんなときに困ることもなかっただろうか。 美緒は正直に言って、おしゃれが苦手だった。 きれいな容姿や可愛い格好には、人並みに興味はある。 だが、ファッション誌に載っているような服やアクセサリーが自分に似合うとは、どうしても思えない。 その原因は、自分の身体にあると、美緒は思っている。 やはり、少し太っているから、あんなモデルのように細身の人が似合うような服は、わたしは着られないのだ。 そう思いこんでいる。 梨々香は「そんなことないよ!」と力説するが、それは親友に対する気遣い、あるいはお世辞というものだろう。 そんな思いこみの結果、美緒は何とも無難で地味な服しか持っていないのだった。 こんなおしゃれの欠片もない、地味な女の子を、安藤はどう思うだろうか。 それが不安で仕方がない美緒だった。 改札を出て、左手の出口に向かう。 「おーい、八重樫!」 安藤はもうそこにいた。手を振っている。もう逃げられない。 美緒はもう、不安でどうにも爆発しそうだった。 ◆ 「それじゃ、行くか。今日は頼むな」 「うん……」 安藤は笑っている。 美緒の私服姿を気にもとめていないように、いつもどおりに。 美緒はほっとするのと同時、なんだか不満だった。 安藤ももちろん私服姿である。シャツにジーパン、スニーカーというシンプルな格好だが、異様にかっこいい。 彼の背を見ながらついていくだけでドキドキが止まらない。 なのに、彼は、美緒の姿を見てもいたって普通だ。 もちろん、自分に魅力がないのは分かっているけれど……。 不公平だ、と美緒は思う。 わたしばっかりドキドキしたり不安になったりで、彼はちっとも普段の様子を崩そうともしない。 その原因が、自分のあか抜けなさにあることは百も承知なのだけれど。 ……もし、自分がもっときれいでおしゃれな女の子だったら、彼と一緒に歩いても、釣り合いが取れるだろうか。彼も少しくらいドキドキするのだろうか。 美緒は歩きながら、そんなことを悶々と考えていた。 駅から一〇分ほど歩いた住宅街の中に、安藤の家はあった。 安藤の招きに応じ、門構えをくぐって玄関に入る。 「ただいまー」 「お……おじゃまします……」 美緒が挨拶を言い終えるより早く、 「お、おかえり」 ハスキーな女性の声が聞こえた。 玄関から奥へと続く廊下に、長身の派手な女性が立っていた。 髪はカールをかけたロングヘア、軽く化粧をしているだけのようなのに、目鼻立ちがとても派手である。 細身の長身はプロポーション抜群。肩をむき出しにしたスパンコールをちりばめたトップスが、異様に似合っている上に、目のやり場に困るほどセクシーだった。 「姉貴……いたのかよ」 「いちゃ悪いのかい、弟」 (お姉さん!?) 不機嫌そうな姉弟のやりとりの脇で、美緒は驚愕した。 安藤に姉がいるのは知らなかったし、たとえ知っていたとしても、予想とは全然違っているように思う。 あのさわやか系で通っている安藤の姉が、ギャル系ファッション誌のトップモデルみたいな女性だと誰が思うだろうか。 安藤姉は二人をじろりと睨む。 「姉のいぬ間に女を連れ込もうってか……まったく、浅はかだねぇ」 「姉貴っ! オレの客の前で失礼なこと言うな! 八重樫には、オレから頼んできてもらったんだ」 「はぁん? オマエに女を連れ込む度胸があるとは思っちゃいないが、どういう用件だい」 怒り出した安藤に対し、姉の方はニヤニヤと笑いながら余裕の表情である。 美緒は誤解を解こうと口を挟んだ。 「あ、あの……安藤くんに、神姫のことで教えてほしいことがあるって、相談されて、それで……」 「神姫ィ?」 呆れたような声で言った安藤姉は、前屈みになって、美緒の前に顔を突き出した。 近すぎる派手な美人顔に、思わず後ずさる。 ふーむ、と五秒ほど顔を値踏みするように眺められた。 そして、 「弟、お茶用意しな。彼女はアタシがアンタの部屋に案内しとく」 「なんでオレが……」 「文句言うな! いいからさっさとやる!」 安藤は頭を掻きながら、不満顔のまま玄関を上がった。 「八重樫、とりあえず上がって……姉貴についてってくれ」 美緒にそう言うと、廊下の奥のキッチンに足を向けた。 どうも姉の命令には逆らえないらしい。 美緒はもう一度、おじゃまします、と言って靴を脱いだ。 安藤宅に上がり、改めて安藤姉を見る。 不敵に笑う彼女の存在感に圧倒される。 初対面のはずなのだが、なぜか美緒には、その不敵な笑顔に見覚えがあった。 弟の背がキッチンに消えると、不意に安藤姉の雰囲気が柔らかくなった。 「そんじゃ、ついてきて」 「あ、はい」 姉の先導で、右手にあった階段を上る。 意外なことに、安藤姉の方から美緒に話しかけてきた。 「ヤエガシちゃんも神姫やるんだ?」 「はい……あんまり強くないですけど」 「ああ、バトロンもやってんのね。アタシも少しはやるけど」 「え? お姉さんも……神姫のオーナーなんですか?」 「そうだよ。……ヴィオ、挨拶して」 そう言うと、長い縮れ髪の間から、薄紫のパールカラーのバッフェバニー・タイプが顔を出した。 メイクされた顔立ちは妖艶で、その雰囲気もどこかオーナーに似ている。 「ヴィオレットです。よろしく、ヤエガシさん」 「よろしく……って」 その神姫の名を聞いて、ひらめくものがある。 そう、バッフェバニーのヴィオレットと言えば…… 「もしかして……お姉さんは、Tomomiですか!?」 「あれ、知ってるんだ。そりゃ光栄」 驚愕している美緒に、安藤姉はこともなげに肯定した。 知っているどころではない。 女性の神姫オーナーで、Tomomiの名を知らぬ者はないだろう。 それどころか、美緒と同じ年頃の女の子なら、大半は知っているはずだ。 Tomomiは女性たちの憧れ、カリスマモデルである。 女性向けのファッション誌での活躍はもちろんであるが、彼女には他のモデルにない特徴があった。 神姫を連れていることである。 彼女の神姫・ヴィオレットもまたモデルである。 時にヴィオレットは、Tomomiを飾るワンポイントであり、時にTomomiとお揃いの服を着こなす。 その様子が、新しもの好きの少女たちに受けた。 Tomomiの影響で、おしゃれのパートナーとして神姫のオーナーになった女の子は、決して少なくないだろう。 そんなTomomiとヴィオレットを、神姫業界の方でも放って置くはずがない。 いまや神姫専門誌やら神姫の情報サイトやらでもひっぱりだこだ。 Tomomiとヴィオレットは、非武装派の神姫オーナーたちのカリスマにもなっている。 そんなTomomiが安藤のお姉さんだったなんて……美緒にしてみれば、思いも寄らぬ展開に驚愕するばかりだった。 ふと、美緒は疑問に思う。 お姉さんが神姫オーナーならば、神姫のことを少なくともそれなりに知っているはずではないか? 「あの……Tomomiさんは、神姫に詳しいですよね?」 「うん? まあ初心者に毛が生えた程度のもんだけど」 「だったら、安藤くんは、神姫のことをお姉さんに聞けばいいのでは……?」 「ヤツはアタシのこと毛嫌いしてっからさぁ。 ……あ、ここね」 Tomomiは無造作に、その部屋の扉を開けた。 美緒の目に映るのは、きれいに片づいた、あまり飾り気のない部屋だった。 あまり広くない部屋に、ベッド、机、キャビネット、本棚が機能的に配置されている。 ポスターなどの装飾は見られない。 そんな中、机の上に置かれた武装神姫のパッケージが異彩を放って見えた。 「それに、アタシは絶対教えないね。男だったら自分で神姫の立ち上げくらいやれっての」 美緒を部屋に入れると、安藤の姉はそう言ってからからと笑う。 そしてまた美緒に向き直り、 「まあ、智哉はそんな感じで、気が小さくて、全然頼りないヤツなんだけどさ。よろしく頼むよ」 そう言って派手なウィンクを美緒に寄越した。 美緒は目を白黒させながら、それでも考えている。 頼りないって……安藤くんが? 美緒にはとてもそうは思えなかったが、とりあえず、こくりと頷くしかなかった。 「それと、もし智哉に襲われそうになったら、大声で助けを呼びな。アタシがヤツをぶっちめてやっから」 そう言って不敵な笑みを浮かべた。 その表情が、彼女の派手な顔立ちに異様なまでに似合っていた。 美緒が驚くばかりで固まっていると、 「こら姉貴! 八重樫に何吹き込んでるんだ!」 安藤がお盆を抱えたまま、横合いから姉をどついた。 「神姫オーナー同士、友好を深めてたんだよ。オーナーじゃないオマエには関係ないだろ」 「つか、関係ないのは姉貴だろ! とっとと出てけ! それに、もうすぐオレもオーナーになるんだからな」 「へいへい」 安藤姉は、艶やかな笑顔で美緒に手を振ると、部屋から立ち去った。 安藤は深い深いため息をつきながら、部屋の扉を閉める。 「……姉貴が帰ってきてるとは不覚だった……」 がっくりとうなだれつつ、部屋の真ん中に置かれた小さなテーブルに、お盆を置く。 お盆の上には、コーヒーカップが二つ載っていた。 どうぞ、と差し出されたカップを素直に受け取る。 湯気の向こうの安藤は、まだうなだれていた。 そんなに姉が在宅だったことがショックなのだろうか。 「で、でも、お姉さんが、あのTomomiだなんて、全然知らなかった」 「学校じゃむしろ秘密にしてるぐらいなんだよ……あんなのが姉貴って、ありえないだろ」 「そ、そうかな……」 美緒も年頃の女の子なわけで、あのカリスマモデルが姉だなんてメリット以外には思いつかない。 安藤もようやく落ち着いたのか、深いため息を一つ吐くと、顔を上げて微笑んだ。 「まあ、あんなヤツのことはどうでもいいから……神姫のセットアップ、はじめようか」 美緒はその微笑にドキリ、と胸を高鳴らし、小さく頷いた。 ◆ 「……それで、ここに小さなチップを三つ、セットすればいいんだな?」 「そうそう。三つのチップの組み合わせで、その神姫の得意なこととか性格が決まるから、チップ選びは慎重にね」 アルトレーネのパッケージを開けた頃から、美緒の緊張も薄らいできていた。 安藤は素直で真面目な生徒だった。美緒の指示をよく聞き、滞りなく作業を進めていく。 「でも、気に入らなかったら、チップの配置をやり直せばいいんじゃないか?」 「うん……そうではあるんだけど」 美緒は眉根を寄せて表情を曇らせる。 「わたしはあんまり好きじゃない……チップの配置を変えると、その前に設定された『心』も消えてしまうの。人間の都合で、何度も何度も神姫の心を消してしまうのは、かわいそう」 「そっか……俺たちだって、誰かの都合で無理矢理性格変えられたりしたら、イヤだもんな」 「うん。だから、はじめに配置したCSCの設定を大事にしたいの」 「そうだな。オレもそうするよ」 安藤は三つのチップを慎重に選び出す。 「八重樫はやさしいな」 「えっ……!?」 視線を合わせずに呟く言葉は、まさに不意打ちだった。 やっと緊張がほどけてきたのに、また心臓が爆発しそうになる。 「そんなこと、ないよ……」 美緒が呟くいつもの言葉は少し震えている。 そう、神姫の心を大切にしたいなんて思うことは、普通、普通だ。 美緒はそう自分に言い聞かせながら、ドキドキが収まらない胸を手で押さえた。 (やだもう、どうしてそんなに、ずるいことばっかり言うのーーーーっつ!?) そのさわやかな顔立ちさえ、美緒には憎らしく思えてくる。 しかし、チップをCSCに慎重にはめ込むときに見せる、真剣な表情に、どうしても見とれてしまうのだった。 「よし、できた」 そんな複雑な乙女心を知るはずもなく、安藤は美緒の方に笑顔を向けた。 美緒は彼の顔をまともに見られず、やっぱりうつむいてしまう。 「そ、そしたら……クレイドルの上に載せて、PCに出てくるメッセージに従って進めればいいから」 「わかった」 安藤が神姫の胸部パーツを閉じ、ボディをクレイドルの上に載せる。 すると、PCが神姫との接続を認識、神姫管理用ソフトを自動的に立ち上げ、初期設定のセットアップに移行する。 いくつかのメッセージに対し、『はい』の解答を行う。 そして、 「武装神姫・アルトレーネ 初期登録モードで起動します」 神姫の口から出た言葉に、安藤は少し動揺した。 その安藤の目の前で、神姫はぱちりと目を見開く。 大きな瞳に、安藤の顔が映っている。 「ユーザーの登録と認証を行います。ユーザーの名前を音声で入力してください」 安藤が振り向き、美緒に目配せしてきた。 美緒は大丈夫、と小さく頷いた。 「あ……安藤智哉」 安藤は少し緊張している。 誰でも初めての神姫の起動の時は緊張するものだ。 大きな期待とひとつまみの不安。 美緒も、パティを起動したときの緊張を思い出す。 「あんどうともや、様で登録しました。安藤様を何とお呼びすればよろしいですか? 音声で入力してください」 「……マスター」 このあたりの入力は、どの神姫でもそうかわらない。 入力項目について、あらかじめ決めておくように、美緒から言い含められていた。 「最後に、神姫の名前を音声で入力してください」 「オルフェ」 抑揚のない神姫の問いに、安藤は即答する。 神姫は黙り込み、空中を見つめているように見えた。 それも一瞬のこと。 「登録完了しました。 オルフェ、通常モードで再起動します」 事務的な口調のメッセージが流れた後、神姫は一度目を閉じ、全身から力を抜いた。 一瞬の後、再び顔を上げ、ぱちりと瞳を見開く。 そこに宿るのは、感情の色。先ほどの事務的で無機質な視線とは明らかに違って見える。 神姫は、安藤を見上げた。 視線が交わる。 安藤は少し驚いて、肩を震わせた。 そんな安藤に、彼の神姫はにっこりと笑いかける。 「はじめまして、マスター。今日からあなたの神姫になりました、オルフェです。これからよろしくお願いします!」 元気のいい、さわやかな声が響いた。 にっこりと笑うオルフェ。 「ああ、よろしく……よろしくな、オルフェ」 「はい!」 少し戸惑いつつも挨拶した安藤に、オルフェは明るく応えた。 美緒はほっとする。オルフェは明るく元気な性格のようだ。きっと安藤とうまくやれるだろう。 CSCの再設定を否定しておきながら、神姫の性格が良くなかったらどうしよう、と密かに心配していたのだった。 「……パティ」 「はい」 持ってきていたバッグから、美緒の神姫が顔を出した。 美緒はパティを手に取り、机の上に立たせる。 安藤は彼女をじっと見つめた。 「へえ、この子が八重樫の神姫かあ」 「あの、マスター。この方は……?」 オルフェにしてみれば、見るもの出会うものすべてが初めてだ。 彼女は美緒とパティを見比べながら、安藤に問う。 安藤はほほえみながらオルフェに説明した。 「彼女は八重樫美緒さん。オレのクラスメイトで……神姫のことをいろいろ教えてもらっている、先生だ」 「……よろしくね、オルフェ」 安藤にフルネームを(特に下の名前を!)呼ばれるのは、なんだかとても気恥ずかしい気がした。 美緒の挨拶に、オルフェは満面の笑みで応えた。 「それから、この子はわたしの神姫で、パトリシア」 「よろしくお願いします、オルフェさん」 礼儀正しくお辞儀をしたパトリシアに、オルフェも頭を下げた。 「こちらこそ。わたしは起動したばかりなので、いろいろ教えてくれると嬉しいです。パトリシアさん」 「もちろんです。……それから、わたしのことはパティと呼んでください」 「はい、パティさん」 二人の神姫はすぐに打ち解けたようだった。 オルフェの相手をパティに任せ、美緒は安藤に講義を続けた。 神姫の扱い方や、メンテナンスソフトの使い方、装備の使用方法や役に立つ情報サイトまで。 教えているうちに二人とも夢中になってしまい、気がつくととっぷりと日が暮れてしまっていた。 ◆ 「今日はありがとな。助かった」 「ううん。気にしないで」 駅での別れ際。美緒は微笑むことができた。ようやく安藤と二人で話すことにも慣れ、楽しいとさえ感じられるようになっていた。 安藤は、頭を掻きながら、ちょっと照れたような表情で言った。 「なあ……八重樫の……その……ケータイの番号とメアド、交換してくれないか」 「……え?」 「またいろいろ相談に乗ってほしいんだ。……神姫に詳しい姉貴があんなだろ? 周りに詳しいヤツもいなくてさ……だめかな?」 それは願ってもない話である。 安藤智哉の携帯番号とメールアドレスなんて、クラスメイト女子が一番ほしがっている個人情報だ。 それを彼の方から交換して欲しいと言ってきている。 美緒はすでに夢心地ですらあった。 夢遊病者のような手つきで、安藤に携帯端末を差し出す。 意識はふわふわと宙を漂っており、ことの成り行きを全く理解していなかった。 数分後、二つの携帯端末を操作し終えた安藤は、片方を美緒に差し出した。 美緒はまた夢遊病者の手つきで端末を受け取る。 安藤ははにかむように笑った。 美緒もつられて笑ったが、なんだか不自然に不気味な笑いになっていたような気がする。 安藤はそれを気にもしない。 「今度は、八重樫たちが行ってるゲーセンに連れてってくれないか?」 「え、ゲーセン?」 「そう。バトルロンド……オレもやってみようと思うんだ」 屈託なく言う安藤を美緒は見つめてしまう。 もちろん、美緒に断れるはずもないし、断る理由もない。 「うん。わたしでよければ、案内するわ」 「やった」 にっこりと笑うと、彼は身を翻した。 「それじゃあ、八重樫。また明日な!」 「うん、また明日」 彼の背に向かって、美緒は小さく手を振った。 美緒の胸はいまだドキドキが止まらない。 ◆ 夢のような怒濤の一日が過ぎてゆく。 美緒は自室のベッドに寝ころび、天井を見つめながら、今日あったことを振り返る。 安藤智哉は憧れだった。 あんな人が彼氏だったら、きっと素敵だろう、そう思って、遠くから見ていただけだった。 彼の素敵なところを見つけては思いを募らせても、決して手の届かない人だと思っていた。 それが今日一日で一変した。 いま美緒が手にしている携帯端末のアドレス帳、その一番最初に「安藤智哉」の名前が表示されている。 美緒はため息をつく。 これはなんという夢なのだろうか。 このまま安藤と仲良くなれば、親しい友達になれるだろうか。 ひょっとして恋人になんて、なれる可能性もあるだろうか。 軽く頭をふり、そんな妄想を打ち消す。 でも、せめて、今のわたしと陸戦トリオの遠野さんくらいには近い関係になることを望んでも、罰は当たらないと思う。 そんなことを考えていると、 「安藤さんは……美緒のことが好きなのではないですか?」 彼女の神姫・パティが大砲を放った。 美緒はその場で転げ回る。 がば、と上げた美緒の顔は、これ以上ないほど真っ赤だった。 「んなっ……何言っちゃってんの、パティ!?」 「美緒と一緒にいるときの安藤さん、とても楽しそうでしたし……憎からず思っているのではないかと」 「そんなこと……安藤くんがわたしを好きだなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないわ」 そう、あり得ない。 その可能性を、賢い美緒が考えなかったと言えば、嘘になる。 だが、美緒はそれを自ら強く否定した。 彼と自分とでは、何もかも違いすぎるのだ。釣り合いが取れないし、なによりそんなことを考えること自体が厚かましい。 だが、パティは首を傾げる。 どうして自分のマスターは、こう自分を過小評価するのか、と。 神姫である彼女の贔屓目を差し引いても、美緒は美人であると思う。 もっと自信を持てばいいのに。 それに、気のない女の子をわざわざ自宅に呼んでまで、神姫の相談をするだろうか。 別れ際に連絡先の交換なんて、気になる相手でなければしないのではないか? パティは冷静に、そう分析していた。 マスターと神姫の思いは平行線をたどりつつ、夜は更けていった。 続く> Topに戻る>
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「……なんでお母さんがここにいるの?」 龍ノ宮大学武装神姫サークル主催バトルロイヤル大会当日 私とレイア…と、なぜかいるお母さんと桜さんはA教場の1スペースに集まっていた 「なんでって~桜から報告を受けたから是非とも愛娘の雄姿を見に行かないとなって~」 いやいや、ちょっと待ってよ こんな簡単に部外者を通してもいいの? 「大丈夫ですよお嬢様。理事長、龍ノ宮 吟璽朗氏に許可をいただいております。それに、この大学と鳳条院グループは電子機器、実験器材等の搬入の契約を結んでおりますので社長と私は関係者扱いなんですよ」 こ、細かい説明ありがとう桜さん… 「というか桜さん…お母さんに話したらこうなっちゃうんだから…」 「いえ、それは私も重々理解はしておりましたが…その…」 「………桜さん?」 「私もお嬢様と若様の雄姿となればぜひ拝見してみたく思いまして…;」 さ…さくらさぁん… 「それにしても…明人や香憐ちゃんたちは?」 いま私たちがいるのはボックス型のブーススペース 1スペースに4~5人くらい入れる個室仕様になっている 今大会では三つの教場を使いそれぞれの個室スペースからノート型パソコンを媒体にネット接続でのバーチャルバトルとなっているみたい ブースの場所はくじ引きでランダムだから兄さんたちがどこのボックスからログインしてくるかはわからない これはマスター同士が直接お互いの神姫の現在位置を知らせることはできないようにするための使用になっている 「つまり…一刻も早くノアちゃんたちと合流したほうがいいのよね?」 と、お母さんがレイアに問いかけた 「はい。近くまで行けば簡易ステータスのシグナルが表示されますので」 レイアがそうはいったものの…バトルステージが半端なく広いのでシグナルが表示される距離となるとすぐには見つからない 逆にいきなり集団からの袋叩きにあっちゃうことはなさそうなんだけどね 『参加者の皆様にお知らせします。開始まであと15分となりました。なお、今回の大会は公平性を保つため主催の神姫サークルに代わりまして我ら、プログラミング研究会がシステム全体を統括させていただきます。私はプログラミング研究会 会長、高町 つかさと申します。本日はよろしくお願いします』 「あ、高町先輩…」 「ん?はづちゃんのお知り合い?」 「うん、高町先輩は今居先輩の親友だから…」 今回の件、今居先輩は私を強制的に引き込むことに反対していた むしろ私のことを心配してくれてどうにかできないかと力になってくれていた いつの間にか今居先輩とは結構親しい仲になっていたようにも思う 先輩自身おとなしい人だから自慢なんかしたこともないけれど、データ解析、分析能力、状況判断は鷹千代ちゃんをファーストクラスにしただけのことはあると私は思う 今では私の尊敬する人の一人となっていた 「では御主人様、セットアップを…」 「うん、頑張ってねレイア!」 「…はい!」 さぁ、いよいよ始まる 相手は150もの大群 でも私たちは一人じゃないということがこれまでにも心強いのかと思い知らされる 昴兄さん、ランちゃん 香憐姉さん、孫市ちゃん アルティさん、ミュリエルちゃん 綾川さん、冥夜ちゃん 今井先輩、鷹千代ちゃん ノアちゃんにミコちゃんにユーナちゃん そして…兄さん 私とレイアに…力を貸して!! 『システムセットアップ。基本データアップロード。武装選択は登録済みのモノを使用、タイプ『α』。セットアップ68%完了…』 ご主人さまに「頼んだぞ」と言われ、媒体となるパソコンに接続したクレイドルで目をつぶった私はサポートシステムの声を聞きながら戦場に立つ準備を行っていた 「おまえは単独行動したとしても…まぁ素人ぐらいなら十人程度同時にさばける…どうだ?」 まぁ、できないこともないですけど… 結構しんどいんですからね? 「お前の力をそれだけ買ってるんだ。頼りにしてるんだよ」 またまた… そんな台詞で私をくすぐる… 「ノア…」 そんな目で見ないでください… そんな目で見られると、私が逆らえないって知ってるくせに… 目を閉じている間にも浮かんでは消えるあの人の顔 惚れてしまったものの弱みというか… ご主人さまに…その…魅かれているという自覚はあった けれど特に最近の私はおかしいのかも知れない 何故…何故なのだろうか… 「…さ……どの……大佐殿!!」 私の後頭部から聞こえた声にハッとなる 私はすでにセットアップを完了して湿地帯立っていた 「大佐殿、お気を確かに!?」 さっきから私を呼んでいたのは翠影だったようだ 「え、えぇ…ごめんなさい、大丈夫よ翠影…」 「大佐殿!…良かったであります…いかがなされましたか?」 「あ、いや…ちょっと考え事を…」 戦闘前に御主人様のことを考えていたなんて…いえな… 「へっ!旦那の事考えてて色ボケてたとかいうんじゃねぜぞ?」 あぐ!? 「何言ってるのよ黒陽…ノアにかぎってそんなこと…ねぇ蒼騎?」 うぐぐ… 「ふ、しかし白菊よ、もしそうであったら我が姫君も中々に御可愛らしいと思わんか?」 な…何も言い返せないぃ…… 「大佐!?お顔が赤い用ですが何故…」 「な、なんでもないわ!それより翠影、索敵はどうしたの!?」 「むうぉ!?了解(ヤー)であります大佐!!」 こうして私の戦いは湿地帯のフィールドから始まった 試合開始より00:12 現在脱落者000名 続く メインページへ このページの訪問者 -
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鋼の心 ~Eisen Herz~ 第30話:フロントミッション2nd アルアクラン。 グループK2が開発した最初期段階の試作型武装神姫。 試作機中最大の大きさを誇り、ストラーフ以上のパワーと装甲、アーンヴァル以上の火力を併せ持つ限界性能試験型。 後に、神姫事業に参入したUnion Steel社に譲渡され、ティグリース、ウィトゥルースの原型ともなったMMSである。 最大の特徴であるフロートユニットによるホバー滑走は、当時のK2においては未完成で終わっているが、Union Steelの技術スタッフの手で完成。同社の神姫、ウィトゥルースの、特徴的な駆動系として勇名を馳せている。 更に同社は、発展系として上半身を浮遊させることでバランス制御の補助と軽量化を両立し、真鬼王と呼ばれる重戦闘形態への変形を可能とした。 これらの技術の成立に、Union Steel社の先鋭的な高い技術力を欠かすことは出来ないが、その発想の根源となっているシステムの構想は旧K2時代に完成を見ているものである。 何れにせよアルアクランは、例え完成を見たとしても市場に出回ることが無かったのは自明だろう。 その戦闘力は、控えめに見積もっても真鬼王2体分を上回る筈であり、他の神姫とのパワーバランスが確実に崩壊するのがその理由となる。 もちろん、開発当事にアルアクランが完成していた場合、その技術のフィードバックによりアーンヴァルを始めとする各神姫も相応の強化を見たことは疑う余地も無い。 その場合、神姫事業全体が今より一段上のスタートラインを持ったであろう。 神姫年鑑2037。 「歴史に埋もれた幻の神姫」より抜粋 ◆ 「…………」 颶風(ぐふう)を伴う豪刃が唸り、カトレアの眼前を掠める。 巻き込まれれば装甲の脆弱なフランカーなどひとたまりもあるまい。 「……チッ!!」 続く左腕の一閃をサイドステップで交わし、距離を維持。 触れれば即死も充分にありうる鋏腕の影響圏に留まり続けた。 「……なんて厄介!!」 離れれば致命的な威力の粒子ビーム砲が、中距離では2門の速射砲の弾幕が、それぞれに襲い掛かってくる。 フレキシブルアームの先端に搭載された2種類の砲は、その自由度の高さから死角のない射撃を可能としていた。 だがしかし、近距離は近距離で、振り回される両腕の鋏と言う脅威がある。 挟まれ、捕まるのは論外。 かと言って、薙ぎの一撃でも容易に神姫のボディを粉砕しかねない威力。 レイブレードで鋏を斬ろうにも、表面にはご丁寧に帯磁処理が施されており、一刀両断と言う訳にはいかない。 勿論、高出力のレイブレードならば、押し付ける事で叩き切る事も可能だろうが。よほどの隙を作らぬ限り、同時にこちらのボディも両断されるのは目に見えている。 仕方無しに、2体掛かりで前後から強襲し、先に背面のフレキシブルアームを破壊する作戦を取ったのだが、6本脚に支えられたボディは振り回される豪腕にも体勢を崩す事がなく、隙は見出せないで居た。 「っ!! 残り時間は!?」 「……20秒」 「あと20秒で片付けるなんて―――」 「―――違う」 カトレアの反対側から強襲を仕掛け、鋏腕を掻い潜りながら、珍しく表情を曇らせるアイゼン。 「……もう、20秒過ぎてる……」 「……くっ」 カトレアの舌打ちの直後、作戦予定時間から30秒目が経過した。 ◆ 「ビリア!! レーザーを!!」 名を呼ばれたブーゲンビリアは、主に答え即座に砲撃形態からレーザーを放つ。 目標は敵ではない。 彼女の主、土方京子は敵を撃つのに一々指示するようなマスターでは無い。 そんな彼女が態々名指しで彼女を指名するという事は、一撃でこの状況の打開を求める場合。 彼女の意図を察したブーゲンビリアのレーザーは、最大俯角で放たれ、海面を直撃。 即座に大量の海水を蒸発させ、濃密な水煙を上げた。 「……水蒸気で防護幕を作ったとて、何処まで持つか!?」 セタやデルタ(複数)が対空弾幕を張っているが、船の大きさに対しサイズの小さな神姫ではカバー範囲に限度がある。 そもそもからして、対空弾幕とは航空目標を攻撃する為の物ではない。 地上攻撃を断念させる為の防御手段に過ぎないのだ。 もとより軍用航空機の強みは機動力と高度。 航空機側が戦闘をする気に成らなければ、地上に居る物には攻撃を試みる事すら出来ない。 故に、不利になれば即座に逃げに移れる航空目標に対し、地上からの応射では最高に上手く行って追い払うのが関の山。 それでは数は減らせない。 事実上、祐一たちの攻撃手段は迎撃に上がった3機の神姫のみ。 天海最強を誇るマオチャオ、マヤアは言うに及ばず。 京子のアルストロメリアストレリチアも一騎当千を地で行く神姫だ。 AI制御のマリオネット如きでは相手にもならない。 ―――が、数が数だ。 僅か数分の間に、合計で100機近く落としているはずだが、敵はちっとも減ったように見えない。 「……コリャだめダナ。一機ヅツ落シテモ意味無イゼ?」 「どうする、祐一やん? ネコはそろそろ弾切れになるの」 今の現状でマヤアが補給に降りれば戦線が崩壊する。 更に、アルストロメリアの燃料も余裕が無い。 2人揃って戻ってしまえば、流石に船への攻撃が増すのは避けられず、そうなってしまえば装甲など無い小型船では1分も持たずに撃沈されるだろう。 故に。 「ブーゲンビリア。……ユピテル“class3”の発射準備を……」 「御意」 京子が命じたのは、ブーゲンビリアの誇るユピテルレーザーシステムの最大出力による発射だった。 3発の化学レーザーを相乗させて放つ一撃は、最早神姫の持つ火力でもなければ神姫の戦いに必要になる物でもない。 もとより、このような対物破壊を目的とした仕様。 確かに“class3”の火力ならば問題無く、海上プラントの構造物を貫通して内部を破壊できる威力がある。 だがしかし。 ソレをわずか15cmの神姫に装備させるには如何に京子の技術を以ってしても無理がかかる。 そして、その無理を負うのは他ならぬブーゲンビリア。 砲身をマイナス数十度まで冷却した状態ならばともかく、現状で“class3”を使用した場合、照射時間は5,6秒程度。 それを僅かにでも過ぎた場合……。 「……大丈夫。その必要は無い……」 「しかし」 困ったような声を出す京子に、祐一は少しだけ微笑む。 「アイゼンたちはきっと上手くやる。……それに」 祐一の後ろ。 航空型の神姫たちが滑走路代わりに使った甲板の奥で、甲高いタービン音が響きだす。 「……今、フェータが上がる」 大出力のブースターに押し出され、あっという間に離陸速度を得た白い神姫が大空に飛び出してゆく。 「行きなさい、フェータ!! アイゼンたちの作戦が終わるまででいい。3分も稼げば充分よ!!」 『はい!! 最初から出し惜しみなしの全力で行きます!!』 帰投するマヤア達とすれ違った直後、フェータは左腕のフリッサーを解放した。 『フリッサーぁ!!』 ドンという衝撃音が聞こえるより遥かに早く、編隊を組んでいたブラックタイプが脆弱な羽根を砕かれ墜落してゆく。 AIとは言え敵も愚かではない。 標的になれば散会するぐらいの知恵はある。 だがしかし。 「そんな暇を与えなければいいだけの話っ!!」 フェータの速度が、軌道が、速さが。 それをさせない。許さない!! 上空を100mほど隔ててすれ違う別の編隊。―――通常なら攻撃目標には選ばないような位置に居るそれを、フェータは逃さない!! 根元から取り付け角度を変える可変翼と、機体を押し上げる推力を大きく偏向するベクタードノズル。 その付加を分散させるスタビライザーとカナード翼。 そして何より15cmという小ささが可能とする“超”高機動。 確かに出力は劣るだろう。 最大速度も比較にはならない。 だがしかし、最低でも数tの重量を持たねば成らない戦闘機たちに、今この瞬間、この状況において!! フェータと言う武装神姫は“それ”を圧倒してのけた!!!! 「……これは……!!」 息を呑む京子。 彼女だからこそ分る。 今フェータに使われている技術がどれほどの物なのか。 そして、京子にしか分らない。 「……これは、真紀の……」 それが、土方真紀の遺した設計だという事に。 そして、それを具現化した老人が居た事に……。 「……………………ストレリチア」 「はいです、マスター!!」 「……此方も出し惜しみは無しだ。カトレアたちを信じるぞ」 「当然なのです、勿論なのです!!」 「よし、成らば【タイフーンモード】にシフト!! 思う存分暴れて来いっ!!」 「了解です!!」 答え、ストレリチアはアーマーを全てパージする。 エウクランテと根を同じくする“それ”には、当然ながら製品であるエウクランテと同様の機能を有していた。 即ち。 「ストレリチア【タイフーンモード】シフト完了!!」 アーマーを合体させてフライトシステムを構築する能力。 ただし、彼女の物は只の鳥型ではない。 「いくですよ、テュポーン!!」 伝説に名を残す怪鳥テュポーン。 一説によればそれは双頭の怪物であったとも言われている。 ストレリチアのテュポーンは、その名の通り、二つの頭を持った怪鳥であった。 ◆ 「これ以上時間はかけられない……!!」 「……だね」 攻撃を避わしながら同意するアイゼン。 「その……。む、村上衛の神姫……。デルタといいましたね? 彼女を倒したあの突撃ならば如何です?」 「……隙は大きいけど、イチかバチかやってみる?」 カトレアは無言で頷く。 これ以上時間はかけられない。 最早、敵の装備を切り崩すような余裕はないのだ。 「……【フェルミオン・ブレイカー】で隙を作る……。貴女はその隙に距離を取ってシールド突撃を……」 「分りました」 交錯、そして分散。 しかし、アルアクランは同時に複数の目標を注視できる。 結果、近付いてきたカトレアには鋏腕を、離れてゆくアイゼンには粒子砲を選択。 同時に攻撃を行うが、二人ともそれは充分に予測している。 「ふっ!!」 「……シールド、集中!!」 カトレアはレイブレードで鋏腕を払い、アイゼンはシールドで粒子砲を弾く。 二人が狙うのはこの直後!! 「今!!」 瞬時に間合いを離したカトレアに反応し、直前までアイゼンを狙っていた粒子砲がカトレアに砲口を向ける。 その隙。 それを狙い、カトレアが粒子砲を引き付けると信じ、アイゼンは防御を捨て【フェルミオン・ブレイカー】の一撃を放つ。 「……行け」 ≪Fermion Breaker≫ 高出力陽電子砲。フェルミオン・ブレイカー。 装甲への威力よりも、むしろ攻撃範囲を重視し敵の脆弱な部分を破壊するエネルギー砲の一撃が、アルアクランの巨体を包み込む。 しかし。 「………………」 装甲表面に電流を流し、剛性を強化する特殊装甲で身を包んだアルアクランには通用しない。 が。 視界を奪えなかった訳では、無い!! 「―――シールド突撃ぃ!!」 陽電子砲の照射が終わると同時に、アルアクランへと突っ込むカトレア。 中枢である神姫部分を正確に狙った突撃がアルアクランを粉砕する。 ―――直前。 アルアクランは信じがたい速度で『滑走』し、その突撃を回避。 「―――ば、馬鹿な!?」 カトレアが驚くのも無理は無い。 それは間違っても、重量級神姫の動きではない。 強いて言うならその加速と速度は、リニアガンの“それ”。 そして、この部屋全体がアルアクランのための“レール”になっている事に気付く由も無い。 だが。 「……悪いけど、こっちは二人掛り……」 理由は知らず、根拠も無いが、アイゼンはその“まさか”に備えていた。 滑走による回避を終えて停止しようとするアルアクランの真上から、フライトモードのフランカーでシールド突撃を敢行し……。 「しぃぃぃぃるどぉぉぉ、突撃いぃぃぃっ!!」 その巨躯を縦に貫いた!! 第31話:THE TOWERにつづく 鋼の心 ~Eisen Herz~へ戻る なんだか気付くともう3週間ですよ奥さん。 時間が経つのが早すぎです。歳でしょうかね? ナイトじゃなくてもタイムベント欲しさに、オーディンに飛翔斬ぶちかましたくなります今日この頃のALCです。 っつーか仮面ライダーディケイドが異様に面白すぎる。 過去9年間放送したそれぞれの仮面ライダーの世界(原作とは違うけど……)を旅すると言う都合上、1つの世界が2話で書き切られると言うのが勝因かと。 ガンダム00やコードギアスのように情報量を多くする事で無駄な描写を徹底的に削ぎ落としているのが大きいのでしょう。 願わくばこのまま、響鬼の後半を台無しにして下さりました(以下略)……。 つーかSS書かずにオリジナルの神姫改造に精を出していたこの頃でした。 ALC。 -
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注意 各項目は順不同に並びます。また、扱われる内容によっては 専用の解説ページを設ける事もありますのでご注意下さい。 また、以下は全て妄想神姫に於ける世界設定類の解釈です。 一部皆様の解釈とは異なる点がありますが、ご了承下さい。 それでも採用してくださる場合は、遠慮無くご利用下さい。 警告 この頁は物語の終盤に出てきた要素を、主に扱っています。 その為、所謂“ネタバレ”が含まれている恐れがあります。 前頁へ戻る ペンダント ロッテが飛べた理由 和食屋 春の新作 “ALChemist”の営業期間(及び時間) 最初の現場 デュアルCSCシステム ラグナロク 二回目の現場 心情の変化と、その代償 藤村外科 怪文書 主要国家の現状と意向 シンクロニシティ 決闘の舞台 模造された“魔術” 晶のペンダント 自己認識 総力戦モード 命を賭けるべき事 約束 ペンダント 晶が、ロッテ達三姉妹の為に作り出した装飾品の事。複数存在するが ここではセカンドランカーの“階級章”を嵌め込んだタイプを指す。 本来は“階級章”を装飾品として身につける為に作った追加パーツ。 しかし後に、晶の手で増設用ハードカバーが与えられている。これは 以前“W.I.N.G.S.”の端末用に作った初代ペンダントと同じ意匠で、 晶が身につけているペンダントと同じ“剣の紋章”が刻まれている。 なお、この“晶のペンダント”については何れ別の機会に語られる。 ロッテが飛べた理由 『検証は最早追い付かない』と晶が言っていた通り、ロッテが天空を 自在に駆けた理由は、生半可な検証作業では明らかに出来ない。その 秘密は、電磁浮遊システムの“反発力”を利用した基礎理論にある。 電磁力で“反発力”を産み、宙に浮くのが電磁浮遊システムである。 ロッテは新たな力を発揮したライナストが産み出す、莫大且つ異質な 雷……即ち電磁力を利用して、システムを再現したのかもしれない。 しかしこれもあくまで推論。その真相は魔剣の構造同様、謎である。 和食屋 厳密には、ここは定食屋である。秋葉原を訪れる人間を当て込んで、 数年前に開店した外食チェーンの実験店舗なのだ。拘りの素材を用い 尚克安値で、客に良い食事をさせる。という高級志向がコンセプト。 味は勿論、栄養価も(外食産業にしては)非常によく考えられており、 秋葉原や神田周辺で働く人間には、徐々に好評を博しつつある。また 買い物客にも、口コミでその評判は広まっている。かなりの人気店。 春の新作 心境的に色々な変化を受けた晶が、2038年の新作として考案中の服。 アンダーから外出用のマントまで、トータルコーディネイトを徹底。 『全ては神姫の為に』という初心を貫いた、華やかなセットである。 鞄やブーツ等の革製品等も揃っている品々は、値段の方でも最高級。 しかし、一切の妥協を排したデザインは可憐・風雅の極みとなった。 部分毎のバラ売りも可能とする事で、顧客層を拡大する方針らしい。 “ALChemist”の営業期間(及び時間) MMSショップ“ALChemist”は、店長たる晶の偏屈な性格を反映してか その営業スタイルも一筋縄とは行かない。新作の作成に没頭したり、 “取材”や“買い出し”で店を半日閉じるケースも、少なくはない。 基本が水曜日定休、年末は“聖戦”最終日から正月三ヶ日まで休む。 (これは最終日に秋葉原へ来る、膨大な人員を処理できない為である) しかし前述の通り不定休な場合があるので、来店時には注意が必要。 ちなみに営業時間の方は、午前十時から午後六時までが大凡の目安。 こちらも状況によっては前後したり、分割される事さえ少なくない。 最初の現場 昭和通に面した、某有名ゲームメーカー直営の店舗。落下したのは、 その内の看板で最も巨大な、キャラ物の看板である。事件直後、壁が 剥き出しとなっており、そこに穿たれたクレーターが全ての引き金。 火災を消し止められた翌日にはブルーシートが張られて、その痕跡は 既に関係者以外には見えなくなっていた。死者も出なかった事から、 検証も念入りという程は行われず、二週間程で修復工事が始まった。 デュアルCSCシステム カラーリングに応じて能力調整と性格設定を配分する現在のCSC。 プロトタイプとしてクリスティアーネが備えていたCSCは、現在の それに基礎レベルでは劣らない物だった。彼女はそれを六つ備える。 胸に六角形を描く様に装填されたCSCは、互いに共鳴したと言う。 演算機能等、バトルに関わる能力以外は同じ……という事は、性格の 構築に作用する効果も六つ分、全てが機能していた事となる。彼女の デュアルCSCとはそれらをバランス良く調整して、感情表現がより 細かい個体を産み出そう、というコンセプトの特殊な機構であった。 結局、メンテナンス性やコスト面……何よりも、CSCの性能が若干 向上しつつあったという事情により、採用は見送られる事となった。 これによりアイデア諸共“プロト・クリスタル”はお蔵入りとなる。 しかし現存する数少ないCSCの内、六つは晶の手中に残っていた。 ラグナロク 北欧神話で“神々の黄昏”という最終戦争の名称として用いる言葉。 同時に一部では、それに肖って名付けられた犯罪結社の名とされる。 有り体に言えば“死の商人”であり、北欧を根城に荒稼ぎしていた。 イタリアに於いて、土着のテロ組織に新作……爆破工作用特殊MMSを 販売して使用させた事から足が着き、遂に壊滅作戦で揉み潰される。 その際に、首謀者・幹部・研究者……主要メンバー全員が殺された。 またその際に押収された“兵器”も、危険な物は破壊されたと言う。 二回目の現場 JR某線の高架下に嵌め込まれる様にして存在する、古いパーツ店が 軒を連ねているビル。電子部品は大抵の物が揃うので、晶のみならず アキバを訪れる様な性質を兼ね備える電器マニアは、よく利用する。 今回の“事故”も看板以外の被害は少なく、怪我人も前より少ない。 だが高架下での爆発という事もあり電車は数時間に渡って停車。更に 『本当に只の事故?』という疑念は、長く人々の間に残る事となる。 なお政府機関の見解は、一貫して“事件性の否定”に終始している。 ビル内部の店舗に被害が少なかった事もあって、ここでも真相究明は 棚上げされ、まずは復旧工事や店舗の再開が優先される事となった。 心情の変化と、その代償 ラグナロクの幹部構成員が、単なる商材として産み出した筈の存在に 何故人間味のある接し方をしたかは、全く以て不明である。或いは、 それも“武装神姫”とそれに連なる存在の“可能性”かもしれない。 ともあれ、彼らが自分で産み出した“神の姫”達に対して、妙に甘く 接していたのは事実である様だ。だが、そうして人間味を取り戻した 幹部構成員の油断こそが、当局に尻尾を掴ませた原因の一端である。 結果“彼女”の為に組織が滅んだのは、紛れもない“事実”なのだ。 藤村外科 秋葉原を少し離れた、外神田の一角に存在する小さな外科医。噂では 二十世紀から開業しているとも言われ、秋葉原でケガをした作業員の 治療で磨いた腕は、確かである。ここの院長は、晶の掛かり付け医。 院長であり唯一の医者である藤村翁は、晶とロッテの成長を最初から 知っている、“オーナー”以外では唯一の存在と言えるだろう。彼は 生傷が絶えない未熟な頃から、ずっと晶とロッテを支えてきている。 怪文書 警視庁を初めとして、幾つかの警察署サイトに送付された怪メール。 スウェーデン語で印されたそれは文法に関して一切間違いが無い為、 スウェーデン人か、スウェーデン語を習っている人間の物とされる。 内容は本編中で語られた通りに、一小節で片づいている。荒唐無稽な 文面と、発信地があっさり特定できるIPからの送信という事もあり 警察組織は結局『悪戯の一種』として、関係各所への連絡に留めた。 しかしそれを目に留める者が居た為、事態はより深く進行していく。 主要国家の現状と意向 二十一世紀初頭に発生した大規模なテロ攻撃。その事件に端を発した “テロとの戦い”は、主要各国の重要な課題として2037年現在も 続行中。“ラグナロク”が、新興組織ながら殲滅されたのもその為。 そんな“敵対方針”を内外に喧伝している国家にとって、テロ組織の 残党が自国に潜伏している状況は、改善されるべき物である。更に、 その残党に人権がないのなら、あらゆる手段を執って止めるだろう。 前田達の出現は、そんな国家の意向によって起きた“必然”である。 シンクロニシティ 血縁関係等が存在しない神姫達が、人や他の神姫と関係を結ぶ場合、 大抵は人間のカテゴライズに当てはまらない“魂”の繋がりとなる。 定義が付随する事も多いが、未定義でも関係を保つ神姫は存在する。 そして余分なノイズが入り難い神姫の意志疎通は、深くなっていくと 無意識下で連動する程の密接な繋がりを見せる。人間でもそう言った 関係はまま見られるが、神姫の場合は特に強いとする説も存在する。 “姉妹”という定義を持った晶達の関係も、その例外ではない模様。 長く暮らしてきた為に、四人の意識は密接にリンクしつつあるのだ。 決闘の舞台 MMSショップ“ALChemist”の作業ブースにセットしてある、個人用の トレーニングマシンが舞台。決闘の為に各種の設定を変更してあり、 規約違反の機体でも、存分にバトルが出来る様な状況となっていた。 結果的にこれは、予期せぬ“事件”を引き起こす要因となっており、 しかし同時にその“事件”を解決する、唯一の可能性を産み出した。 模造された“魔術” “彼女”が偶然作った“魔術”は、クララのそれとは違い全く整理が 為されていない、言ってみれば“情報の混沌”である。それは一重に “彼女”の憎悪が凝縮する事で産み出された、“意思の力”である。 これは、直後に起きる“事件”で“敵”が使った攻撃も同様である。 駆動エンジンは違っても、力の拠り所は“彼女”と同じだったのだ。 晶のペンダント ロッテ達三姉妹が持つペンダントの、デザインソースとなった逸品。 これは槇野歩の遺品であるが、特別な何らかのギミックが有る訳では ない。単に歩が自作したと言うだけで、他に特別な意味もない物だ。 しかし、遺品のペンダントヘッドには裏に“言葉”が刻まれていた。 その言葉は、本編で出てきたキーワードと同様である。これは、歩が 何らかの想いを遺す為、敢えて共通の単語を用いたのかもしれない。 自己認識 “彼女”が、己と晶達との関係をあっさりと定義出来た理由は不明。 但し、神姫ではない“彼女”に現行品のCSCは装填されていない。 そしてロッテ達“三姉妹”には、“プロト・クリスタル”が備わる。 その“生い立ち”が無関係だと言い切る事は、誰にも出来ないのだ。 総力戦モード 発生した“事件”の解決にあたって、晶は一時的に“アルファル”と “プルマージュ”六機の制御権限を、ロッテに一元管理させている。 これは碓氷灯が編み出していた戦術をヒントにした、急場凌ぎの策。 結局の所、それが決め手となる事はなかった。超AIを持つ彼女らは 権限を書き換えられても、本来の主を忘れられなかったのだ。しかし 主の“姉妹”という事で、その身を尽くす事に躊躇はなかった様子。 命を賭けるべき事 “事件”を解決出来なかった場合でも、国家や社会が危機に陥る様な 大問題が発生する事はない。だが“姉妹”にとってみれば、文字通り “命”を掛けるに値するだけの、極めて重大な“事件”とも言えた。 それはつまり、晶と“姉妹”の関係が単に神姫とそのオーナーという 物ではなく、更に大切な間柄へと純化されつつあった事に起因する。 そう言う意味では発生自体が、世界の命運に匹敵する程の物なのだ。 約束 それは永遠に過ごせなくとも、朽ちず共にある為の“誓い”である。 今後晶達がどうなっていくかは、誰にも分からない。皆を突き動かす “恋人”等が現れるかもしれないし、生涯純潔を護るかも知れない。 しかし“約束”がある限り、晶とその“妹”達。その間にある絆は、 誰にも断ち切る事が出来ないだろう。それは、文字通り命を賭ける程 強固な“願い”である。皆は、大切な“真の姉妹”に成り得たのだ。 そう。かつて見た亡き“姉”が、最期の瞬間までそうしていた様に。 メインメニューへ戻る
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ウサギのナミダ ACT 0-5 ■ 神姫も、夢を見る。 スリープモードで、クレイドルで充電とデータのバックアップを行っているとき。 それは神姫にとって「睡眠」にあたる。 マスターによれば、睡眠中に脳が蓄積された情報を整理し、その時に漏れでた情報を認識すると、夢になる、のだそうだ。 だから、データのバックアップ中に、わたしたちが認識するものも、やはり夢なのだ。 わたしは、夢を見る。 いつも同じ夢、恐い夢。 わたしの前には男の人。 顔は影になっていてよくわからないけれど、目だけが異様な輝きを放って、笑っている。 彼は、わたしに手を伸ばす。 わたしは身をすくめる。これから、自分の身に起こる出来事を予想しながらも、あらがうことはできない。 「や……っ」 男の人がわたしを掴み、顔の高さまで持ち上げる。 大きな顔が、わたしの視界いっぱいに広がる。 わたしは、恐くて、身体を震わせる。 でも、ここは彼の手のひらの上だ。 逃げ場なんてない。 彼は、わたしを両手でつまみ上げながら、さらに顔を近づけてきた。 息がかかる。臭い。 顔の下の方にかかった影が、横に一筋裂けた。 裂け目が広がると、ぬらり、とした軟体動物のようなものが出てくる。 舌だった。 「あっ……や、あ……っ」 男の人の舌は、わたしの身体をなぞる。 脚の先から、ふともも、ヒップからウェストのライン。 股間と胸は、特に念入りに舐められる。 太い舌先は巧みに動き、わたしの弱い部分を的確に責め立てる。 いやなのに。いやなのに。 いやらしい舌の動きを、わたしの身体は性的快感と認識する。 いやだという気持ちと、なぶられる快感が、相乗してさらに気持ちを高めていく。 「あ、あ、はあぁ……あぁ……」 頭がぼうっとする。 何も考えられなくなってくる。 わたしの身体は男の人の唾液にまみれ、いやな臭いを放っている。 その臭いすらも快感を助長する芳香に変わる。 わたしは快感に身を委ね、なすがままにされていた。 ふわふわとたゆたうような感覚に、わたしはどっぷりと浸っている。 と、突然。 ぼきり、という鈍い音。 「ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」 ふわふわとした感覚は、爆発した激痛に吹き飛ばされる。 声が出ない。声にならない悲鳴。 さらにまた。 わたしの身体から鈍い音が響く。 わたしは身を焼くような激痛の出所を、左腕と右脚であることを、かろうじて突き止める。 だからといって、何もできない。 わたしはただ、大きく目を見開いて、堪えきれない痛みにぱくぱくとあえぎながら、涙を流すだけだ。 さらに、残りの四肢も折られた。 わたしは身動きもとれず、ただ激痛に悲鳴を上げる。 目の前の人を見る。 その男の人の顔は、相変わらず影になっていたが、その二つの目と裂け目のような口だけがはっきりと見える。 笑っている。喜んでいる。 わたしがのたうち回る姿を見て、嬉しがっている。 彼の方から、何かが飛んできた。 べちゃり、と粘液のようなものがわたしに降りかかる。 白く、べたべたの粘液は、何かすえた臭いがする。 いやだと思っても、いまのわたしには、この粘液を払うことさえできない。 男の人の光る両目が、さらにゆがんだ。 わたしを掴み上げると、わたしの背に指を当てたまま、親指でわたしの胸を押す。 わたしは恐怖した。 身体を折る気だ。 「や、めて……ください……やめて……」 やめて。死んじゃう。 わたしがどんなに懇願しても、そんな様子すら楽しんでいる。 わたしの背が限界を超えて曲がっていく。 折れてしまう。 死んでしまう。 たすけて、だれか、たすけて……だれか……。 ごきん。 「あああぁぁっ!!」 わたしは悲鳴を上げて、飛び起きた。 暗い。 あたりは静かだった。 時計の音が妙に大きく聞こえる。 それからわたしの荒い息。 「はあ、はあ、はあ……」 わたしは自分の身体を確認する。 どこも、折れてなどいない。 感じていたはずの激痛も今はない。 手は、白い布……お布団代わりの、マスターのハンカチを握りしめている。 「夢……」 わたしはやっと安堵して、深く息をついた。 怖い夢。どうしても見てしまう、かつての現実。 まだあの店を出て何日も経っていない。 過去の記録……思い出にしてしまうには、あまりにも最近の出来事すぎる。 白い布を握りしめる手元に、黒い染みが広がった。 瞳から涙がこぼれ落ちる。 夢は過ぎ去ったというのに、怖くてたまらない。 怖くて、怖くて、それでもわたしには為す術がなくて。 ただ一人、すすり泣くことしかできない。 突然。 あたりが明るくなった。 真っ暗だった部屋の明かりが灯ったのだ。 スイッチのところに立っている人影は、マスター。 マスターは、寝間着姿で、髪は乱れ、目は半眼のまま、こちらを向いている。 とてつもなく不機嫌そうな表情。 起こしてしまった。 わたしが、悪夢に悲鳴を上げたせいで、マスターのお休みを邪魔してしまったのだ! わたしは、マスターに睨まれて、目を見開いたまま硬直してしまった。 まるで蛇に睨まれた蛙だ。 わたしは身動きをすることもできず、絶望的な気持ちでマスターを見つめる。 これから、どんなひどい仕打ちが待っているだろう。 マスターは大股に歩いて近寄ってきた。 思わず、身を縮めてしまう。 ……ところが、マスターはPCに近寄ると、立ち上がっていたアプリケーションを次々に閉じて、PC本体も電源を落とした。 縮こまっているわたしを、もう一度見る。 非常に不機嫌そうな表情は変わらない。 わたしはクレイドルの上でさらに縮こまる。 すると、マスターはクレイドルごと、ベッドのサイドボードに持ってきた。 ケーブルをPCからコンセント供給用アダプタにつなぎ直す。 クレイドルの充電ランプが灯った。 データのバックアップはできないが、充電はできる。 わたしが何もできずに硬直していると、マスターはさっさとベッドにあがり、布団をかぶった。 首だけがこちらを向いて、また睨まれる。 「明日、延長ケーブルを買ってくる。寝る」 マスターはそれだけ言うと、枕に頭を沈ませ、そしていくらもしないうちに規則正しい寝息を立てはじめた。 わたしはあっけに取られていた。 これはどういうことなんだろう。 わたしは、つまり……マスターのそばで眠ることを許された、ということなんだろうか。 なぜ? お休みのマスターを邪魔したのに? あんなに不機嫌そうな顔をしていたのに? ……期待なんて、してはだめだ。 わたしは本来、この人の武装神姫になんてなる資格がないのだ、初めから。 でも、ベッドのサイドボードから見下ろすマスターの顔は、見たこともない安らかな表情で。 いつも冷静沈着、無表情で少し冷たい印象の男性ではなく、無邪気な少年のように見えた。 そんなマスターの顔を見つめていると、不思議と穏やかな気持ちになっていく。 おかげで、さっきまでの怖かった気持ちは、だいぶ薄らいでいた。 わたしはクレイドルの上で丸くなると、布団代わりのハンカチを引き寄せた。 □ 朝、目が覚めると、PCの電源が落ちていた。 クレイドルも、その上にいたはずの俺の神姫もない。 焦って、辺りを見回すと、俺の枕元にクレイドルは移動しており、その上でティアは眠っていた。 ほっとする。一瞬焦ってしまった。 そういえば、夜中にティアの叫び声を聞いて、一度起きたのだったか。 何が原因かはよくわからなかったが、ともかく心配だったので、枕元に持ってきた……のだと思う。 半分寝ぼけていたらしく、記憶は曖昧だ。 でも、なにやら心配だったのは、やはりまた、ティアが泣いていたからだ。 いま俺にティアの涙を止めてやることができなくても、せめてそばにいてやることぐらいはできる、と思う。 ……ただの自己満足だったとしても。 クレイドルの上で丸くなって眠るティアを覗くと、安らかな寝顔が愛らしかった。 小さく安堵のため息をつく。 まもなくして、ティアの瞼が瞬いた。 「あ……」 俺を見て、眠気を一気に吹き飛ばすように起き上がり、あわてて居住まいを正す。 「お、おはようございますっ……」 そんなにあわてなくてもいいのに。 しかし俺は素っ気なく、 「おはよう」 と返事した。 俺は、ティアの前ではできるだけ無表情を通すと、決めていた。 ティアが俺のことを信じ、自分から俺の神姫と認めてくれる時まで。 まずは、俺が無害な人間であることを信じてもらわなくてはならない。 そう思っていた。 ■ その日から、わたしの、武装神姫としての訓練が始まった。 主にトレーニングマシンを使ったバーチャルトレーニングだ。 まず、一通りの武器を使ってみるところから始まった。 片手で持てる銃火器を中心に、両手持ちでも軽量な銃、ナイフなどの刀剣類や、トンファーといった近接武器まで。 使い方は、素体交換時にプリセットされた戦闘プログラムと基礎データでだいたい分かっている。 出現する的を撃ち落としたり、ダミーの敵を攻撃する、といった単純な内容を黙々とこなす。 マスターはPCでわたしのデータを取り、どの武器がわたしと相性がいいのか検証する、ということだった。 マスターは課題を出すだけ出して、大学に行く。 わたしは、マスター不在の間、ずっとマスターの課題を消化していく。 大学から帰宅したマスターは、毎日作業スペースに向かい、何かを作っているようだった。 こんな日が数日続いた。 マスターが不在の昼間、私は一人、黙々とトレーニングに励む。 その間にいろいろなことを考えた。 だけど、結局、何も分からないままだった。 一つだけ分かっていることは、進むべき道はマスターだけが知っているということだった。 だからわたしは、マスターに言われるがまま、ついていくしかない。 マスターはわたしを使って夢を叶えたい、と言った。 だから、たとえ嫌がられようとも、マスターの夢を実現していると示し続けることが、わたしの存在意義なのだ。 そう結論したわたしは、またトレーニングを消化していく。 ある夜。 わたしはまた夢を見る。 薄気味悪い男の人の影。瞳だけが異様な輝きを放っている。 黒い手が、わたしに手を伸ばしてくる。 これから起こる仕打ちを想像して、わたしは身を縮める。 ……ところが、その手がわたしを掴む寸前、別の手が伸びてきて、わたしが乗っているクレイドルを掴んだ。 そのままするり、と視線が移動する。 わたしはクレイドルごと、別の手によって運ばれていく。 薄暗く寒々とした部屋は、柔らかな光に包まれた部屋に変わっていた。 その手は、クレイドルを自分の枕元に運んできた。 手の主はマスター。 マスターは非常に不機嫌そうな顔をしており、口をへの字に曲げている。 マスターは、わたしを睨みつけるように見る。 わたしが視線の鋭さに、びくり、と身を震わせると、 「明日は公園に行くぞ」 と言って、そのまま枕に頭を沈めた。 まもなく、規則正しい寝息が聞こえてきた。 なんだかちぐはぐな成り行きに、わたしは首を傾げた。 そして、不意に目を覚ます。 暗い部屋。 PCのディスプレイだけが、部屋を青白く照らしていた。 まだ真夜中だ。 あたりは静まり返っている。 規則正しい寝息が聞こえてくる。 そちらに視線を向けると、マスターの寝顔があった。 日頃の緊張を解いたような、少年のような寝顔。 夢の中で見たマスターの寝顔と同じ。 マスターのその顔を見るたびに、わたしは優しい気持ちになれる。 マスターの役に立ちたいと思う。まだなんの役にも立っていないけれど。 マスターの気持ちに応えることができるようになれば、いつものような無表情ではなく、この寝顔のように優しい顔を向けてくれるだろうか。 そうだったらいい、と思いながら、わたしはまた眠りにつく。 マスターになった、この人の存在が、わたしの中で意外にも大きくなっていることを感じていた。 次へ> トップページに戻る